大規模言語モデルは、目標と選好の設定、意思決定の状況の判断、意思決定の枠組みの選択を行う際にも役立つ。ここでも対話がカギにある。適切な問いを投げかけることで、対話の中で意思決定の背景状況をよりよく理解できるようになる。たとえばチャットGPTを使えば、同じような意思決定の状況下にある他社が考えたであろう典型的な目標に関する提案をすぐに見ることができる。

 一例として、次のようなプロンプトが考えられる。「こんにちは、チャットGPT。私はオハイオ州コロンバス郊外にある中規模機械メーカーの社長で、経営は順調です。新しい人材、特にエンジニアの獲得に苦労しています。どのような原因が考えられますか。同じような製造企業は、人材不足に対処するためにどのような戦略を採用していますか」

 要するに、対話、議論の相手としてのチャットGPTの知能はますます高まっているのだ。意思決定の枠組みを設定し、多岐にわたる選択肢を考案し、それらを検討するという作業がチャットGPTのおかげで不要になるわけではない。この点については、本稿冒頭でのチャットGPTの自己評価は正しい。とはいえ、興味深い視点を提供してくれるのは確かだ。

 大規模言語モデルには、人間の議論相手と比較していくつかの長所がある。自分の利益を追求せず、最高意思決定者を(たとえば自分のキャリアアップなどのために)喜ばせようという気もない。社内の集団浅慮や官僚政治の影響を受けない。

 そして、外部の経営コンサルタントや社内の戦略部門よりも、はるかにコストが低い。つまり、チャットGPTによって小規模企業における意思決定の準備と支援のコストが下がり、条件が平等になる可能性がある。

ケーススタディの未来

 ビジネススクールで学ぶ経営者の卵たちは、すでに多くのケーススタディを通じて意思決定について間接的に学んでいる。意思決定の枠組みの中で、可能な行動の選択肢を考案し、検討することによって、意思決定モデルのレパートリーを習得する。

 当然ながらケーススタディには、特定の意思決定状況に関する完璧な答えという形でソリューションが記載されているわけではない。ケーススタディでは問いが提起され、意思決定の枠組みが提示され、意思決定の選択肢が概説される。

 将来の経営者候補はこれらのケーススタディを学習に使えるだけでなく、大規模言語モデルの訓練にも使うことができる。ただし、これはまだ実現していない。

 チャットGPTのプログラマーは、公開されているケーススタディのごく一部しか入力できていない。真のデータの宝庫は、5万件を超えるケーススタディを擁するハーバード・ビジネス・パブリッシング(HBRの親会社)や、非営利のケースセンターといった主要機関で独占的に保管されている。

 ビジネスケーススタディの保管機関が大規模言語モデルの開発企業と協力すれば、プログラミングやコピーライティング、顧客からの問い合わせ対応などを支援する言語アシスタントが、企業にとって強力な意思決定アシスタントに変わるかもしれない。

 これは将来、より簡単に実現するだろう。なぜなら学習アルゴリズムはますます効率化しており、「中規模言語モデル」も可能になるからだ。そこにはインターネットの半分や全図書館分のデータを与える必要はなく、特定の分野に関連するテキストと文書で訓練すればよい。これが実現するのは時間の問題だ。

 いずれにせよ、より多くの情報に基づくビジネス判断への経済的インセンティブは非常に大きい。これにより、現在のチャットGPTは、後さらに強力な「ディシジョンGPT」とでも呼べるものに変わる動きが進むだろう。

 チャットGPTや同類のシステムの大きな強みは、似ている複数の状況を比較対照できることだ。これこそまさに、経営判断の多くにおける最も重要なニーズである。経営者らが直面する意思決定のうち、唯一無二のものはほとんどない。かつて何千人、時には何百万人もの経営者が、似たような選択を迫られてきたのだ。

 彼らがどのように意思決定の枠組みを設定し、選択肢を比較検討し、決断をしたのかについて、人間の言葉でより巧みに説明されればされるほど、ディシジョンGPTはより多くの情報に基づく意思決定のための強力なツールとなりやすい。

 やがて、こうした経営判断の多くは自動化される可能性がある。今日重役室にいる幹部らが考えているよりも早く、より頻繁に、ロボットマネジャーが導入されるかもしれない。

 だがそれまでの間は、現在利用できるツールを使って意思決定プロセスを向上させる経営者が有利となるだろう。チャットGPTのようなモデルに答えを求めてはならない。意思決定プロセスの各段階で、問いを通じて探索をさせるべきだ。


"Using ChatGPT to Make Better Decisions," HBR.org, August 24, 2023.