経済的現実の理解

 サプライチェーンのパートナー企業と連携する際、企業はしばしば金銭的なインセンティブ(もしくはディスインセンティブ)だけでサポートするという誤りを犯す。そのような要素もたしかに重要だが、その前にまず、サプライヤーの基盤と期待値を設定することを怠ってはならない。

 特に重要なのは、サプライヤーに対して、経済的現実と、温室効果ガス排出削減との間のトレードオフの関係について、はっきり理解させることだ。脱炭素への歩みを推し進めようと思えば、莫大なコストがかかる可能性がある。しかし、実際には、コストが増える場合ばかりではない。水や肥料などの使用を減らしたり、プラスチックの使用を最小限に抑えたり、再生可能エネルギーに投資したりすることは、すべてコスト削減につながる。企業は、サプライヤーがそうしたことを計算し、具体的な方法論を見出す手助けができる。

 企業は、持続可能な転換を主導するために、パートナー企業との関係をどのように構築すべきかも検討すべきだ。長期の契約を結び、持続可能な転換をインセンティブでサポートすることは、有効な促進要因になるかもしれない。

 ペプシコは、農産物加工・食品原材料大手のADMと7年半の長期に及ぶ戦略的商業契約を結んだ。コストとリソースを共同で負担し、環境再生型農業を拡大させることを目指すプロジェクトで緊密に協働していく方針を打ち出した。具体的には、北米における両社共通のサプライチェーン内で、2030年までに200万エーカー(81万ヘクタール)の農地を環境再生型農業に転換することを目標として設定した。

実践の後押し

 ネットゼロを実現する過程で克服すべき課題は極めて複雑で相互に関連しているため、実行を運任せにしていてはうまくいかない。そこで、ペプシコはパートナー企業としてサプライヤーに指針を示すことにより、それらの取り組みを後押ししてきた。さまざまな戦略が相互作用する中で、共通の目標へ前進しやすくすることが狙いだ。

 たとえば、SBTの設定を手引きするプログラムを立ち上げ、特に、再生可能エネルギーへの転換など排出削減策のさまざまな選択肢について情報を提供した。どのようなアプローチが適切かは、それぞれのサプライヤーを取り巻く状況によって大きく変わる可能性があるからだ。

 規模とネットワークという武器を持つペプシコのような企業は、有望なスタートアップ企業に投資して成長を助け、さらに世界有数の大企業との関係も活かすことにより、持続可能性の難しい課題を解決するために貢献できる可能性がある。そのようにして、好ましいソリューションの費用対効果をいっそう向上させ、パートナー企業が利用しやすいようにすればよい。

 ペプシコは農業関連のテクノロジーに関して、世界中のデモンストレーション用農場で有望なソリューションの実験を行い、真のインパクトを生み出せると期待できるサプライヤーへの投資を進めてきた。農家の支持を取りつけ、新しいソリューションの迅速で有効な導入を実現するうえでは、そのソリューションの有効性を実証することが極めて重要なのだ。

 ペプシコは、「pep+REnew」というプログラムを通じて、サプライチェーンのパートナー企業が再生可能エネルギーを共同で大量購入する支援もしている。それを通じて、個々のサプライヤーが単独では達成できない「規模の力」をつくり出し、高い費用対効果を実現しようというわけだ。

 持続可能なバリューチェーンをつくり上げることは容易でない。しかし、正しいアプローチを選べば、持続可能な目標を達成し、よりレジリエンスの高い組織を築き、ビジネスの成果を高めるための強力な手段になる。

 ペプシコでは、これを最終目標として位置づけている。そして、本稿で論じてきた3つの要素──期待値の設定、経済的現実の理解、実践の後押し──を重んじることにより、ペプシコ、そしてサプライチェーンのパートナー企業を、真に持続可能な成長へ導くだろう。


"Inside PepsiCo's Effort to Reach Net Zero Emissions," HBR.org, September 07, 2023.