1. 学習する

 株式報酬を含む採用オファーに同意する前に、株式に関わる基本概念の知識を深めたほうがよい。行使価格がストックオプションの価値に及ぼす影響や、優先残余財産分配権が従業員のストックオプションに及ぼす影響、そしてストックオプションとRSUの違いについて知っておく必要がある。最も重要なのは、スタートアップ企業が報酬として提供する株式の株数だけ見ても、その株式の経済的価値はわからないという点をよく理解することだ。

2. 質問する

 現在の米国の制度では、非上場企業に対して、資本政策表の情報をすべて開示することを義務づけていない。だが、将来の雇用主に対しては、株式報酬を伴うオファーを正しく評価できるように、適切な質問を投げかけるべきだ。たとえば、企業の資金調達の歴史や資本構造について尋ねよう。どれほどの資金が調達されたのか、それが何を意味するのかを知ることは、意思決定の助けになる。また、自分に提供される株式が発行済み株式全体の何割になるのかも尋ねることだ。同業他社の標準的なデータと比較したほうがよい。こうした情報の開示を拒む企業は、警戒すべきだろう。

3. 株式報酬のコストを考慮する

 株式報酬に関して、自身がどのような投資をしなくてはならないのかも詳しく検討したほうがよい。ストックオプションの行使価格に、提供されるオプションの数を掛け合わせて、自身に割り振られている自社株式を購入するために必要な金額を算出すべきだ。これを怠ってはならない。ストックオプションを行使しなければ、権利は消滅し、その価値がなくなる。したがって、権利を行使する際に必要な出費と、自分の人生の資産運用計画を照らし合わせて考えることが重要だ。あまりにその出費がかさむと感じる場合は、現金比重が大きいほうが好ましいかもしれない。

4. 長期間、株式上場をしない場合を想定する

 昔に比べ、スタートアップ企業が長期にわたり、株式を公開しないケースが増えている。そうなると、従業員が株式報酬により経済的な利益を得られる時期が先に延びることになる。しかも、従業員が企業を辞める際はたいてい、わずか90日の間に、ストックオプションを行使するか、放棄するかを決めなくてはならない。

 一方、旧来型のストックオプションではなく、RSUを受け取る人たちもいる。RSUを選べば、自己負担の必要はないものの、7年以内に企業が上場しなければ、その権利が消滅する可能性がある。しかも、その企業がプライベート資本市場で資金調達を続け、複数の資金調達ラウンドを経験する場合は、そのたびに、資本構成が複雑になる。これは、従業員の株式報酬の潜在的価値に影響を及ぼす。

 また、成熟したスタートアップ企業に入社すると、ストックオプションを行使する際の出費が大きくなり、個人の資産運用リスクが増大する可能性もある。

5. 専門家に相談する

 株式全般に関する知識に自信がある人も、専門家の意見を聞くことにより、自分に示された採用オファーの内容を深く理解することができる。そうすれば、正しい知識に基づいた意思決定を下せるようになるだろう。

 株式に精通することは、単にファイナンスを理解することではない。その知識は、スタートアップ企業の世界で、正しい知識に基づいてキャリアと投資に関する意思決定をする際に、中心的な役割を果たす。複雑な金融上の概念について、包括的な知識を得ることにより、スタートアップ企業の世界を自信を持って進むことができ、まるで幻のように見えた株式を本当の所有物に変えることができるのだ。


"When It Comes to Compensation, More Equity Isn't Always Better," HBR.org, September 12, 2023.