
顧客からのフィードバックは本物か
「楽しんでいただけていますか」
「ああ、ありがとう」
レストランでの食事中に、給仕係がこのように声をかけるプラクティスは、世界中のレストランで実践されている。そのタイミングは、料理が運ばれて少ししてからのことも多い。たいていの客は、「楽しんでいます、ありがとう」と、反射的に答える。
一見したところ、これはフィードバックループの始まりのようだが、本当のフィードバックが得られることはまずない。給仕係も「魚の皮がパリッとしていない」とか「野菜の塩味が強すぎる」といった、詳細な感想を期待していない可能性が高い。単に、料理がそこそこ満足できる内容かどうか確認して、コースを先に進めようとしているだけだ。客のほうも、エチケットを守って、長々しいやり取りを避け、本気で建設的なフィードバックを言うことはない。
こうした社交辞令的なやり取りは、双方にとって損だ。レストランは、オペレーション上の不備を発見したり、料理を改善したり、評判を高めたり、顧客ベースを拡大したりする機会を失う。客はワクワクしたり、場合によっては、その店に感動したりする機会を失う。
本稿の執筆者の一人(ゴールドバッハ)は最近、ブルックリンに期間限定でオープンした高級レストランで、一風変わった経験をした。
シェフみずからが、いくつかの「高級」食材を組み合わせた料理を出してきたのだ。正直言って、その組み合わせは少しも美味しくなかった。それでもゴールドバッハ夫妻は礼儀正しく、その一皿をちびちびと食べきった。そこに給仕係ではなくシェフが出てきて、突っ込んだ質問をしてきた。社交辞令的なやり取りを求めていないことは明白だった。
「この料理は、しばらく前から研究してきたものです。いろいろな要素が含まれていますが、お口に合いましたか。よりよい料理をご提供するためにも、率直な意見を聞かせていただけませんか」。その誠実さと、厳しい意見も歓迎されるという安心感から、夫妻はその料理が口に合わなかったことを伝えられた。また、そのレストランにより強い縁を感じ、その成功に興味を持つようになり、問題の料理が改善されたかどうか様子を見るために、数週間後に再訪した。
多くの企業は、この基本的なオペレーションの原則を見失って、顧客からフィードバックを得るシステムを必要悪と見なし、できるだけ負担を軽くして、無難に済まそうとする。リソースが限られていることが多い中小企業は、顧客のフィードバックを得る努力をほとんどしない可能性もある。しっかりした顧客フィードバックシステムは、会社が大きくなってから整備すべき「贅沢なもの」だと経営者が感じているのかもしれない。これは近視眼的な考えである。なぜなら、真のオペレーションの効率アップは、顧客から見て変更すべき点に手を加えることで得られるからだ。
したがって、フィードバックをもらうことは重要だが、それが本物であってこそ価値がある。だが、顧客はそうした突っ込んだ会話を敬遠しがちだ。そして企業がフィードバックを求める方法は、こうした顧客の敬遠する姿勢を強めてしまう可能性が高い。システム全体が大きな負担となり、本来の目的を見えにくくし、ほとんどの場合、無意味な儀式になってしまっている。それは、価値を毀損するおそれさえある。
問題を是正する
フィードバックループが機能不全に陥る原因は、企業と顧客の両方にある。企業は、顧客が簡単に入力できて、数値化できるフィードバックシステムを構築しようとする。だから私たちは、電話で何かを問い合わせると、「そのまま切らずに、簡単なアンケートにお答えください」という自動音声を聞くことになった。だが、カスタマーサービスに電話をした後、ほとんどの人が一番したくないことの一つは、通話を続けることだろう。
稀に顧客が対面で率直な感想を述べようとすると、より具体的な意見を聞くために追加質問をされるのではなく、雰囲気を「和らげる」よう訓練されたスタッフから、自己防衛的な対応を受けることが多い。だが、多くの場合、雰囲気を和らげる最善の方法は、客の意見に真摯に耳を傾ける姿勢だ。
客も問題の一因となる。人はリスクや衝突を避けたがるから、総じて「やっかいな」やり取りは避けようとする。フィードバックシステムを修正する第一歩は、客がそのように感じる理由を理解することだ。
・率直なフィードバックは認知的な負担に感じられる。ほとんどの人は、難しい会話や感情的な会話を避けようとする。なぜなら、負担を感じるからだ。生産的交流と呼ばれるものを初めて研究したハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のクリス・アージリスは、対立的な状況で使える3つの戦略を挙げた。
(1)迂回:その問題についての議論を避けて、先に進む、(2)指摘:その問題に気がつくが、話題にはしない、(3)関与:実際にその問題について議論する。そのレベルが高くなるほど、人間関係にとってのリスクは大きくなる。たいていの場合、人は迂回しようとする。顧客フィードバックの場合、迂回とは、本音ではそう思っていなくても、「うまくいっている」と回答することだ。
・フィードバックの影響が不必要に大きく感じられる。これはとりわけ、クチコミサイトで感じられるものだ。本稿の執筆者の一人(ラスケーズ)は最近、ある小さな店について正直なコメントを書くべきか迷った。ぜひとも成功してほしいと応援している店で、提供する商品は素晴らしいのだが、サービスはいただけなかった。だが、それを正直に書けば、意図せぬ影響を及ぼすことになると考えて、結局書かないことにした。
・報復を恐れる。報復を恐れて、正直なフィードバックをしない顧客もいる。レストランの場合、厨房のスタッフが料理にいたずらをするイメージが思い浮かぶかもしれない。実際、何度も小さな失望を味わっているのに、その店との関係が悪くなるのが嫌だからと、フィードバックをしたくないという声をよく聞く。このような顧客は、事実上、その店や企業が提供するサービスやプロダクトよりも、店(企業)との関係を重視しているようだ。
・フィードバックの要求がホワイトノイズのようになっている。あらゆるビジネスが、あらゆるやり取りについてフィードバックを求めるため、逆「コモンズの悲劇」(共有資源の乱獲が資源の枯渇を招く)のような状況が生まれる。つまり、個人が集団を犠牲にして資源を消費するのではなく、集団がフィードバックの要請を無視してビジネスにダメージを与えるのだ。
「こんなこと、わざわざ問題にすべきなのか」と言う人もいるかもしれない。現代のフィードバックシステムを見れば、問題のヒントは十分に得られるのではないか、と。それは無理だと、筆者らは主張したい。多くの場合、不満のある顧客は何も言わずに立ち去ってしまい、二度と戻ってこない。したがって、解決すべき真の問題は、「正式な」フィードバックメカニズムが「すべて順調だ」と言っていても、実際にはサービスに問題が生じているかもしれないことだ。
しかもその問題はたちまち悪化して、評判に傷がつくかもしれない(これは立て直すのが難しい)。ほとんどの健康問題と同じように、予防および早期発見は、状況が悪化してから強力な介入措置を講じるよりずっとよい。
そこで、いくつか改善策を紹介しよう。