
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
消費者は体験の共有を過度に重視する
人の人生にはたいてい、他人と過ごす良質な時間と一人で過ごす時間が混在している。
最近の推計によると、映画館に行く時の90%は同伴者がいるというデータからもわかるように、最初から一体感を得ることを目的とした体験がある。一方で、読書や絵画の制作のように一人で過ごすことを目的とした体験もある。
そして、人は時間の使い方を自分で決めることが多いが、企業側の選択もその決定に影響を与える。明示的であれ暗黙的であれ、ビジネスは消費者が同伴者といること、あるいは一人でいることを促すように設計されている。たとえば、遊園地の乗り物は各列に2席あったり、レストランでは向かいが空席のテーブルに座らなくてもよいようにカウンター席が用意されていたりする。
こうした決定は、顧客体験にどのような影響を与えるのだろうか。特に、人がジレンマに直面した時、何が起きるのだろうか。つまり、質は下がったとしても友人やパートナーの隣で体験することを選ぶのか、それとも同伴者と遠く離れても質の高いサービスを選ぶのか。たとえば、コンサートでステージから遠いが、隣り合った2席を選ぶべきか、隣り合わせでない最前列の2席を選ぶべきか。遊園地の乗り物には、すぐに乗り込めるために家族が分かれて乗るべきか、それとも家族全員一緒に乗るために長い時間待つべきか。
『ジャーナル・オブ・コンシューマー・サイコロジー』誌に最近掲載された筆者らの研究から、消費者は活動の際に同伴者と物理的に近くにいたいがために、より質の低いサービスを選択する傾向があると示された。
人は、交流の機会がほとんどない状況(ヨガのクラスなど)でも、のちに一体感を得る時間が豊富にあるとわかっている時(長い休暇を一緒に過ごすために飛行機で移動中)でも、さらにはそのサービスは一人向けだと企業側が伝えていても、同伴者と物理的に近くにいることを優先し、質の低いサービスを選ぶのである。
消費者は一体感を重視する。大切な人と物理的に隣り合うことができるという理由で、あまり楽しくない体験を選んだり、質の高い体験を諦めたりもする。その結果、消費者は満足せず、売上げは低下し、ビジネスチャンスを失うことになる。筆者らの調査からは、マーケターが消費者に対して、必要であれば同伴者と離れたほうがよいと奨励する戦略があることも明らかになった。
一体感と質のトレードオフ
人は、単独行動のほうが楽しくても、人と一緒の体験を選ぶという考えを検証するため、筆者らはまず、体験型演劇「スリープ・ノー・モア」に対するトリップアドバイザーのレビューを分析した。ニューヨークで公演されているこのユニークな劇は、参加者がシェイクスピアの悲劇『マクベス』を追体験しながら、複数の部屋を歩き回る。重要なのは、この体験が一人向けに最適化されていることだ。観客はしゃべらないこと、自分のペースで歩くこと、同伴者と一緒だと観客と俳優の間に壁ができてしまうことを制作側は強調している。
終演後に館内のバーで同伴者と落ち合えることが知らされていたにもかかわらず、参加者の一部(筆者らがコード化したレビュー312件のうち45件)はこれらの説明を明らかに無視し、同伴者と一緒にいることを選択した。さらに、同伴者と一緒だった参加者は、トリップアドバイザーでその体験を低く評価した。その評価は、同伴者と離れた人に比べ約25%低かった。