そこで筆者らは、消費者が体験の質よりもパートナーとの一体感を優先する理由を理解するために、ラボとオンライン上で一連の実験を行い、チョコレートを選んだり、ショーやクラスの席を選んだりしてもらった。たとえば、テキサスA&M大学のメイズ・ビジネス・スクールの行動研究所で実施した調査では、学生にもう一人の参加者といくつのチョコレートを分かち合いたいかを尋ねた。2つのチョコレート(一人につき1つ)をもらって一緒に食べるか、4つのチョコレート(一人につき2つ)をもらって別々に食べるか。もう一人の参加者が見知らぬ人ではなく、新しい友人だと知ると、少ない数のチョコレートを一緒に食べるという選択をした人のほうが多かった。

 最終的に筆者らは、意外性のない結論を導き出した。すなわち、人は知人と共有した体験を記憶したいという願望を持っていて、物理的な距離が近いと特別な思い出をつくりやすいと考える、というものである。多くの人は、たとえ人と共有しても質の低い体験は実際にあまり楽しいものではないと認識している。それでもなお、共通の活動を記憶するために、あまり楽しくない体験を選ぶのだ。

 これは問題を引き起こす可能性がある。エリカ J. ブースビーらの研究によると、人と体験を共有することで楽しさが増すのは、その体験が最初からポジティブなものである場合に限られる。ブースビーらの理論によれば、人々がネガティブな体験(駄作の映画を一緒に見るなど)を共有した場合、その体験を一人でした時と比べてより不快に感じるという。

 このことは、マーケターやカスタマーエクスペリエンス担当のマネジャーにジレンマをもたらす。多くの人は、一人で活動させようといくらあなたが促しても、無視するだろう。それでも、消費者がその製品やサービスに満足するなら問題はない。だが満足していないなら、その体験を人と共有したことで消費者の反応はさらにネガティブなものになるからである。

一人の体験を楽しくする

 もし、あなたの会社が提供する体験を、消費者が(少なくとも活動の一部を)一人で行うことにメリットがあるのなら、より質の高い体験を選択するよう促す方法がいくつかある。

 消費者はパートナーも一緒に同じ特典を味わえない体験は、したがらないことを考えると、同伴者にも同じ特典を提供すれば特別待遇を受け入れるようになり、その満足度も高まる。頻繁に飛行機を利用する人の配偶者に、米国運輸保安局(TSA)が運営するセキュリティチェックの事前検査プログラムであるTSAプレチェックの追加パスを提供するのはその一例だ。

 しかし、金銭的またはスペース的な制約から、企業が顧客に対して、体験全体を向上させる無料特典または割引特典を提供できるとは限らない。たとえば、航空会社はファーストクラスで隣り合う2席を用意できないことがある。座席が隣同士でない場合、2人組の旅行者にファーストクラスの無料アップグレードをどのように伝えるべきだろうか。

 パートナーとの物理的な距離の近さが必ずしも楽しさを最大化しない体験で、人々に別行動を取らせる方法の一つが、活動を機能的なものとして定義することだ。

 たとえば、フライトは家族旅行で家族が共有する多くの活動のうちの一つにすぎない。そこで、最終目的地まで人々を運ぶという目的を果たす実用的な活動としてフライトを定義することで、旅行者がよりよい体験をするために一時的に離れることを促せる。航空会社はファーストクラスの隣り合わない座席のカップルをもてなす際に、ただ「無料のアップグレードです」と言うのではなく、「このフライト中の時間を休息に使ってください。飛行機を降りた瞬間から冒険が始まるのですから」と付け加えるとよいことを、筆者らの調査は示唆している。

 最後に、企業が提供する体験には、人と一緒に楽しめる部分もあれば、一人ひとりが思い思いに没頭できる部分もあると消費者に説明するとよい。

 美術館を訪れるカップルを思い浮かべてほしい。ある時点で分かれてそれぞれ異なる経路で異なる展示物を見ようと提案するのは、たとえそのほうが幸せな時間を過ごせるとしても気まずい、あるいは不適切だとカップルの側は感じるかもしれない。だが美術館側はグループで訪れた来館者に対して、コレクションのさまざまな側面を手分けして探索することで、美術館を「完全制覇」できると提案するとよい。再び落ち合ったところで写真を共有したり、自分が見たものを教えあったりすることができ、その結果、美術館での体験の特別な思い出を一緒につくることができる。

 筆者らの研究に基づく知見を活用すれば、マーケターは共有体験の質が低かったという顧客からのクレームを最小限に抑えられる。つまり、より充実した一人の時間を体験しつつ、他者とのつながりも維持できると、消費者に提案するとよいのだ。とりわけ、教育やセルフケアといった他者との物理的な近さが必ずしも楽しみを最大化しない活動で、これは有用だ。消費者が一体感をしばしば過大評価しがちであると理解することで、組織はよりよい戦略を獲得し、顧客はより幸せになれるだろう。


"Research: Consumers Choose Shared Experiences Over Quality Ones," HBR.org, September 21, 2023.