
サステナビリティは、ブランドが最低限満たすべき要素
これまでほとんどの消費者にとって、サステナビリティは、どのブランドの商品を購入するかを判断する際に、「あるに越したことはない」という程度の要素だった。それがブランドに求める必須の条件とされることは稀だった。しかし、状況は変わり始めている。筆者らの調査によると、いま人々の消費行動のパターンに大きな変化が起きようとしている。
サステナビリティをめぐる取り組みに関して無責任な主張をしていたり、十分な投資をしていなかったりするブランドよりも、真にサステナビリティを重視しているブランド──人間と地球に対する約束をきちんと守っているブランド──が消費者に好まれるようになりつつあるのだ。サステナビリティは、消費者が購買の意思決定をする際に、ブランドに対して最低限満たしていてほしいと思う要素になり始めている。このような新しい時代に対処するために、企業はいまから準備を整えなくてはならない。
なぜ、企業にとってこの点が重要なのか。その理由を理解するためには、3つのことを頭に入れる必要がある。
・信頼は人々の行動を突き動かし、最終的にはビジネス上の成果を生み出す要因となる。
・サステナビリティを重んじることは、企業に対する信頼を育む。特に、若い世代の信頼を獲得する効果が大きい。
・近い将来、米国の消費市場の購買力の大半を若い世代が握るようになる。
1. 信頼は人々の行動を突き動かし、最終的にはビジネス上の成果を生み出す要因となる。
筆者らは信頼を研究テーマにしており、その一環として30の業種、500以上のブランド、何十万人もの消費者と従業員を対象に調査を行い、信頼が行動を後押しする効果について調べた。
企業の従業員が会社に対して信頼を抱いていると、仕事へのモチベーションが高まり、欠勤の割合が減り、転職を目指す割合も減る。また、顧客がブランドへの信頼を抱いていると、同業他社よりもそのブランドの商品を購入、または再購入したり、ほかの人たちに勧めたりする確率が高まる。
そして、高い信頼を得ている企業の企業価値は、そうでない企業に比べて最大5倍にも達する。このような目を見張るパフォーマンスが生まれるのは、企業に対する信頼が高まるにつれて、株価に及ぶ好影響がますます大きく膨らんでいくからだ。
筆者らが運営するプラットフォーム「トラストID」では、企業に対する信頼の度合いを数値評価している。そのデータによると、企業の信頼性のスコアが30から31に上昇すると、株価がおよそ3%上昇すると予測できる。このスコアが60から61に上昇した場合は、株価が6%上昇すると予測できるのだ。
2. サステナビリティを重んじることは、企業に対する信頼を育む。特に、若い世代の信頼を獲得する効果が大きい。
このように信頼が大きな恩恵をもたらすとすれば、当然浮かび上がってくる問いがある。何がブランドへの信頼を生み出すのか、という問いだ。筆者らの研究によると、その強力な要因がサステナビリティである。では、なぜサステナビリティに関する姿勢が信頼につながるのか。その点を理解するためには、まず信頼がどこから生まれるかを知る必要がある。
煎じ詰めると、信頼は、ブランドや組織が好ましい約束をして、その約束を果たした時に育まれる。つまり、好ましい「意図」を伝え、高い「有能性」を実証することが必要とされるのだ。
筆者らは、18~98歳の米国の消費者35万人以上を対象に調査を行い、ブランドの意図と有能性をどのように認識しているかを調べた。意図に対する評価を数値評価するためには、2つの要素を組み合わせて用いた。それは、ブランドの人間性(思いやり、やさしさ、公平性)と、透明性(みずからの考えていることと関連の情報をわかりやすい言葉で伝えることへの前向きさ)である。一方、ブランドの有能性は、これとは別の2つの要素を組み合わせて数値評価した。それは、ブランドの能力(提供するものの質)と、安定性(提供の一貫性)である。
この研究により明らかになったのは、サステナビリティがブランドの意図に対する評価を押し上げる強力な要因というだけではない。この点に関して、世代間の違いが大きいことも見えてきた。若い消費者も年長の消費者もブランドの有能性(質と一貫性)に関心を払うが、若い世代は年長世代以上に、ブラントに対する信頼、そして購買行動は、ブランドの意図に大きく左右されるのだ。
具体的に言うと、あるブランドが人間や地球への影響に配慮していると思った場合にそのブランドの商品を購入する確率は、Z世代とミレニアル世代の顧客のほうが年長世代より27%も高い。この結果は、サステナビリティが若い世代の購買行動に及ぼす影響の大きさを浮き彫りにしている。
ブランドの意図に対する評価を左右する2つの要素──人間性と透明性──について、もう少し掘り下げて検討してみよう。
・Z世代とミレニアル世代の顧客は、あるブランドを人間性の面で高く評価した場合、そのブランドの商品を購入し、同業他社の商品よりもそのブランドの商品を選ぶ確率が年長世代に比べて15%高い。
・この世代の顧客は、あるブランドを透明性の面で高く評価した場合、そのブランドにより多くのお金を使う確率が年長世代に比べて30%高く、同業他社の商品よりもそのブランドの商品を選ぶ確率が20%高い。