3. 近い将来、米国の消費市場の購買力の大半を若い世代が握るようになる。

 未来予測の専門家によれば、Z世代とミレニアル世代の購買力は、2030年頃にベビーブーム世代を上回るという。それまでに、68兆ドルの富がベビーブーム世代から若い世代へ移転する見通しだ。

 ブランドがこの世代の信頼を獲得するためには、サステナビリティに関する取り組みが人間性と透明性の面で確実に水準を満たしていなくてはならない。

・人間性の面で好印象を得るためには、属性や経歴、思想信条などに関係なく、すべての人を価値ある存在と位置づけ、尊重しなくてはならない。また、従業員を尊重し、大切にすることも重要だ。そして、純粋な利益追求よりも、社会の善と環境を優先させて行動する必要がある。

・透明性の面で好印象を得るためには、ブランドが地域コミュニティと環境に及ぼしている影響について、わかりやすい情報を、消費者が見つけやすい場所に公表すべきだ。

 こうしたことをうまく実践できている組織は、その恩恵を受け取ることができる。たとえば、米国屈指の大手スーパーマーケットチェーンであるパブリックスは、筆者らの「トラストID」のデータによると、同業の11のスーパーマーケットブランドのなかで1位に立っている。2位のブランドに比べて、人間性のスコアは75%、透明性のスコアは47%高かった。この差は、Z世代とミレニアル世代の顧客ではいっそう際立っている。これらの世代は、パブリックスと2位のブランドを比較して、人間性のスコアで83%、透明性のスコアで95%、パブリックスを高く評価していた。

 パブリックスに信頼を抱いている顧客は、ほかのスーパーマーケットチェーンではなくパブリックスで買い物をする確率が54%高かった。この傾向は、Z世代とミレニアル世代ではいっそう強く、これらの世代はパブリックスで買い物をする確率が162%高かった。

 このようにパブリックスが高い信頼と顧客のロイヤルティを獲得できているのは、このブランドが人間と環境に投資していることが明白だからだ。たとえば、同社の従業員には、四半期ごとに自動的に自社の株式が給付されて、さらに自社株を買い増す権利も与えられる。その結果として、パブリックスは、世界最大規模の従業員所有企業になっている。20万人を超す従業員が合計でおよそ80%の株式を保有しているのだ。

 これだけではない。パブリックスでは、医療給付と学費給付に加えて、従業員が退職金を積み立てた場合に会社が同じ金額を積立金に拠出する制度も導入している。しかも、こうした制度はパートタイム従業員も対象にしている。また、この会社の従業員は定期的に成績評価を受けて、昇給が行われるようになっている。

 こうした手厚い福利厚生制度も一因になって、パブリックスの自発的退職率は5%に留まっている。これは、業界で標準的な水準である65%とは比較にならないくらい低い。『フォーチュン』誌の「働きやすい会社100」リストに26年連続で選出されているわずか4社のうち、その1社がパブリックスなのも意外ではない。

 パブリックスは、地球環境の面でも、食品の廃棄を減らし、自然環境を保全するために積極的に投資している。2022年には、製造過程で生じた約2万5000トンの廃棄物を農家に提供して、家畜の飼料として活用してもらった。同年、シーフード部門はポリエチレン製容器の使用をやめて、再利用可能な容器に転換し、容器の消費量を19万個削減した。また、総菜部門はビニール袋を環境への負荷の少ないものに変えたほか、ビニールで包装したスプーン類を提供するのではなく、スプーン類を並べたワゴンから顧客が必要なものを持ち帰るようにした。これらの取り組みをすべて合わせると、年間のプラスチック使用量を160トン以上減らすことができた。

 そして、パブリックスは、「グリーンワイズ」と名づけた独自のサステナビリティ重視の食品ブランドも立ち上げた。この食品ブランドでは、質の高い原料を使用し、アニマルウェルフェア(動物福祉)を徹底的に重んじる姿勢を鮮明に打ち出している。

 あなたの会社もパブリックスの経験から学ぼう。大きな転換点が訪れるのは2030年だが、あらゆる企業は、サステナビリティに関する取り組みを強化し、この問題に関する自社の姿勢を積極的に発信すべきだ。そうしたことを現時点で実践してこそ、将来に信頼を獲得し、さらには顧客を獲得できるのである。


"Research: Consumers' Sustainability Demands Are Rising," HBR.org, September 18, 2023.