ステップ3:妨げになる思考を克服する
リーダーは、変革しようとする確かな意思があるにもかかわらず、それをくじくような考えに直面して苦しむことがある。
ユーセフが新しく就いたカントリーマネジャー職は、以前のグローバルなマーケティング職より2段階下のポジションだった。彼は、就任する前に新しい上司と会ってどのような協力ができそうかを話し合い、準備を整えた。しかし、かつてみずからが企業に貢献した時の方針を、新しい同僚に批判された際に自分がどのように反応するかまでは予測していなかった。
新しい上司は、すべての地域に新製品の販売を求める会社の方針が地域の実情を反映していないと批判した。ユーセフはかつてその方針を推進する立場だったので、つい自己防衛的な反応をしてしまった。「本社は地域差をよく理解しています。それでもなお、新製品の販売の動機付けを与える必要があるのです。そうでないと、地域はこうした潜在的価値のある商品を積極的に売り出さないかもしれません」と彼は答えた。
ユーセフの上司と同僚は、上から物を言われているように感じた。この地域は価格に非常に敏感で、高額な新製品の販売で苦戦を強いられていたからだ。上司も同僚も、ユーセフにはさらに協力的になってもらいたいと感じた。
ユーセフの反応は、彼自身がほとんど気づいていなかった思考に影響されていた。一つは「私はこれまで本社で勤務してきたので、あなたがたよりも会社の戦略をよく理解している」、もう一つは「私たちの方針が思慮に欠けるなどと、よくも言えたものだ」という思いである。意識下に潜むこの思考が、協力的でありたいという彼の願いの妨げになり、非生産的で自己防衛的な反応を引き起こしたのである。
筆者は、マインドフルネスを土台にした認知療法、アクセプタンス・アンド・コミットメント・セラピー(ACT)をユーセフに紹介し、自分の思考を「解除する」(思考と現実を混同した状態を脱するため、両者を切り離す)方法を教えた。一つの簡単な方法は、目を閉じて、思考が目の前のスクリーンに映し出されるのを見ている自分をイメージするというものだ。ユーセフの反応の最大の引き金は、「私はこの会社の価値観をあなたがたよりも理解している」という考えだった。
このように自分の思考と、それに関連する思考を解除することによって、ユーセフは挑発的なコメントと自分の反応との間に距離を置いて、より生産的な会話をできるようになった。ユーセフはもう少しで辞職を願い出るところだったが、いつの間にか、本社での彼の経験から学ぼうとする若い同僚のメンターの役割を担うようになっていた。すべては、かつてほとんど自覚していなかった思考による影響が和らいだおかげである。
ステップ4:実践する
何の困難もなく、個人的な変革の目標を設定し、進むべき道を選択し、実行できるリーダーなどいない。変革はたいてい試行錯誤を経て成功するものであり、意図的な実践が必要である。すべて大規模な変革を狙うよりも、必要とされる小さな変革を意図的に実践して経験から学ぶほうが成果を上げられる。
ナオミは、チームに耳を傾けることは新しく取るべき行動の一つにすぎないことを理解していた。それ以外にも、いちいち些細なことまで管理するのを辞めること、さらに人に委ねること、チームにさらに大きな権限を与えることが必要だった。彼女はそれらが簡単ではないとわかっていたので、小さな変革を定期的に実践することにした。
チームのミーティングを始める前に、各メンバーが取り上げたい話題を順に発表するとか、自分の代わりにミーティングをリードすることをメンバーに依頼するという方法もあるだろう。ナオミにとって、こうした小さな変革は、チームがどのように機能するか、また自分がどのように反応するかを学ぶ機会になった。やがてナオミとチームは、会社が期待する文化の変革に資する働き方へと変わっていったのである。
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行動を変えることは容易ではない。しかし、ほぼ絶え間なく変わり続ける組織の中で成功を収めたければ、これはリーダーとして身につけるべきスキルである。リーダーは自己認識を高め、変わることを約束し、妨げとなる思考を克服し、新たな行動を意図的に実践することによって、先頭に立って導くよう託された変革を成功させる可能性を高められるだろう。
"Leading Change May Need to Begin with Changing Yourself," HBR.org, September 20, 2023.