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ストーリーテリングがいかに重要か
歴史家のドリス・カーンズ・グッドウィンは、もし機会があったなら第16代米大統領のエイブラハム・リンカーンにどのような質問をするかと聞かれ、こう答えた。「自分がひどい歴史家のように思えるが、何かストーリーを聞かせてほしいと頼むかもしれない」。グッドウィンがみずから記しているように、リンカーンは偉大な政治指導者であっただけでなく、巧みな話術の持ち主でもあり、ストーリーを使って人々を楽しませ、教育し、鼓舞した。
ストーリーテリングは重要なリーダーシップスキルである。スタンフォード大学の心理学者ゴードン H. バウワーとミハエル C. クラークが1969年に初めて発見したように、人は事実をストーリーで語られると7倍も記憶しやすい。
また、ストーリーを語ることは、サンタクララ大学教授のジェームズ M. クーゼスとバリー Z. ポズナーが共著『リーダーシップ・チャレンジ』で提唱している効果的なリーダーシップの5つの実践すべてに有効だ。その5つとは、(1)模範となる、(2)共有のビジョンを呼び起こす、(3)プロセスに挑戦する、(4)人々を行動に駆り立てる、(5)心から励ます、である。そこで、どのようなストーリーがどのような結果をもたらすのかを学ぶことが重要になる。以下で解説していこう。
トラストストーリー
ザ・モス(ストーリーテリングのイベントを主催する団体)の著書How to Tell a Story(未訳)にも書かれているように、「ストーリーを共有することは、あなた自身の一部を共有することだ」。そうすることで信頼が築かれ、聞き手と新しい方法でつながるようになる。トラストストーリーは、リーダーとしてのあなたを人間らしくし、チームを「心から励ます」ことができる。
世界的な保険会社TIAAの社長兼CEOであるタスンダ・ブラウン・ダケットは、サッカーチームで唯一の黒人少女だった時に、チームメートの誕生日パーティに招待されなかったという記憶を、会議で唯一の女性であり有色人種であることと結びつけている。個人的なエピソードを披露することで弱さを示すと、相手もそれに応えようとし、信頼の好循環が生まれる。
ティーチングストーリー
社会的関係性に関する専門家であるブレネー・ブラウンは、リーダーを「人々の可能性を見出し、それを伸ばす勇気を持つ人」と定義している。優れたリーダーは優れた指導者でなければならない。ストーリーは、行動やスキルのわかりやすいモデルを提供して、複雑なトピックを単純化する。
ロウズの会長兼社長兼CEOであるマービン・エリソンは、自分の人生に起きたストーリーを使ってチームを指導している。彼がキャリアの初期にターゲットで働いていた時、同社のシニアリーダーが店舗を訪れ、従業員にフィードバックを求めた。誰も発言しなかったため、エリソンは新しいシステムが意図した通りに機能していないと述べた。結局、システムは修正され、エリソンは発言したことが評価された。彼はロウズの店舗を訪れる際、「人々を(率直な)行動に駆り立て」、フィードバック重視の文化を促進する方法としてこのストーリーを語っている。
トラストストーリーは自分を中心に構築されるが、ティーチングストーリーや他の3つのタイプのストーリーは、間接的な物語になることもある。他者のストーリーや例え話を使ってメッセージを伝えるのだ。聴衆が主人公を自分と重ね合わせて共感できるようにすれば、ストーリーで伝えたかったことを、彼ら自身も望むようになる。