アクションストーリー
リーダーの仕事の重要な部分は行動を喚起することであり、そのための最良の方法の一つが、聴衆に「こうすれば(ここにあなたが望む行動が入る)、こうなる(望む結果)」と思わせるストーリーを使うことだ。
起業家は、新しいビジネスアイデアを始めるためにアクションストーリーを使うことができる。キャンバの創業者兼CEOのメラニー・パーキンスは、グラフィックデザインを身近なものにしたいと思っていた。そのためには、投資家向けに新しいストーリーをつくる必要があった。「人々はデザインを恐れている」とパーキンスは言う。「自分はクリエイティブではないと一生思い続けるように条件づけられている」。初期のサクセスストーリーでは、簡単なデザインの課題をクリアして履歴書を作成し、就職に役立てた人々などについて語った。
アクションストーリーは、組織の変化を促すのにも有用だ。ペプシコの元CEOのインドラ・ヌーイは、同社で「プロセスに挑戦する」、つまり新たな試みに挑戦するためにストーリーを使った。主に砂糖が使用されている製品ポートフォリオを、健康志向へシフトさせたのだ。彼女は、楽しいという印象を維持しつつ、体にもよいものにしたかった。「人々の感情に語りかける言葉は、理性に語りかける言葉よりも重要だ」とヌーイは述べる。彼女は、取締役会の賛同を得るために間接的な物語をつくり、消費者の嗜好の進化という新たなトレンドをストーリーで表現した。
バリューストーリー
組織の価値観をチームに浸透させたいのであれば、「模範となる」手段として、その価値観を実践している人のストーリーを語る。
たとえば、ズームの創業者兼CEOのエリック・ユアンは、家族第一の考え方の模範を示すため、息子のバスケットボールチームに同行していたため会社のクリスマスパーティに遅刻したというエピソードをよく話す。チョバーニの創業者兼CEOのハムディ・ウルカヤは、汚職が蔓延するトルコで育ったという話を頻繁にし、そのことで倫理的なビジネスリーダーになりたいと思うようになったと説明している。このようなストーリーは、個人と組織の価値観を伝え、価値観に基づいた行動を促す。
ビジョンストーリー
ビジョンストーリーを用いたリーダーの例は、歴史上、豊富にある。ウィンストン・チャーチルはダンケルクの撤退作戦の後、「海と大洋で戦う」「けっして降伏しない」という英国の姿を鮮明に表現した。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアは、有名な「私には夢がある」の演説の中で、「人間は肌の色ではなく、人格そのもので判断される」という世界を描くためにストーリーを使った。
ビジネスでは、ゼネラルモーターズ(GM)CEOのメアリー・バーラが、「事故ゼロ、二酸化炭素排出ゼロ、渋滞ゼロ」の未来をストーリーで表現している。2014年、マイクロソフトのCEOに就任したサティア・ナデラは、社内の「知ったかぶりをする」文化を「何でも学ぶ」文化へシフトさせる必要があった。「何でも学ぶ」という考え方を促進するために、ナデラは自身の父親についてのストーリーを語った。「彼は毎日この日記を書いていました。そこから人々が出会い、行動するためのアイデアが生まれたのです。それは継続的なシステムと言えます」
ストーリーは、まだ見ぬ未来を鮮明かつリアルに感じさせ、聞き手がそれに向かって前進するような「共有のビジョンを呼び起こす」ものである。
前述のクーゼスとポズナーの著書のタイトルが示唆するように、リーダーシップはチャレンジだ。しかし、ストーリーは、効果的なリーダーシップの5つの実践すべてに役に立つ。ビジョンストーリーは共有を促す。バリューストーリーは模範となる。アクションストーリーは変化に火を点け、そのプロセスに挑戦する。ティーチングストーリーは、知識とスキルを他者に伝え、人々を行動に駆り立てる。そして、あなたが自分のストーリーを共有すれば、信頼が築かれ、メンバーを心から励ますことができるのだ。
"5 Types of Stories Leaders Need to Tell," HBR.org, September 22, 2023.






