判断力こそAI時代の競争力の源泉である
Illustration by Chen Wu
サマリー:チャットGPTをはじめとした生成AI(人工知能)の登場で、AIが企業に広く普及し、技術的な障壁が低下しつつある。そうした状況下で企業の競争優位を確立するのは、人間の「判断力」になる。しかし、スキルを強化する... もっと見るだけでは優れた判断力は育たない。本稿は、変化のスピードに適応するため、判断力をどうとらえて活用すべきか、重要な3つの側面に着目して解説する。 閉じる

AIの真の可能性を実現するために必要な能力

 AI(人工知能)がエリート専門家やデータサイエンティストの領域のものと考えられていたのは、それほど昔のことではない。企業はAIがビジネスを変革する可能性について熱く語っていたが、AIにアクセスできる従業員はごく一部だった。

 しかし、生成AIが状況を一変させた。オープンAIのチャットGPT、グーグルのバード、アンソロピックのクロード2といったツールのおかげで、突然誰もが潜在的なプログラマーになった。しかし、こうした技術的進歩の一方で、AIの真の可能性を実現するためには、すべての組織において基本的で長期的な能力が必要になる。それは判断力だ。

 AI時代における判断力という考え方は、筆者らの亡き同僚で、先見の明のある友人であったアレッサンドロ・ディフィオーレの研究の中核を成す概念だった。ディフィオーレは起業家で、ヨーロピアン・センター・フォー・ストラテジック・イノベーション(ECSI)の創設者兼CEOでもあった。

 彼は人間を中心に据え、テクノロジーは人間の創造性、自律性、批判的思考を強化するものと考えていた。『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)に頻繁に寄稿していた(HBRイタリア語版の会長も務めた)アレッサンドロは、イノベーション、リーダーシップ、そしてAIの連携についてしばしば考察した。2018年の論考では、AIがすべての従業員により身近になるにつれ、判断力があらゆる技術的スキルと同じくらい重要になると論じている。

 アレッサンドロは、AIシステムが一般的な運用基準を獲得するにつれて、判断力が組織の真の競争優位をもたらすと主張した。しかし、スキルを強化するだけでは優れた判断力は育たない。企業は、変化のスピードに適応するために、判断力のとらえ方や活用方法を根本的に見直す必要がある。アレッサンドロは、判断力の3つの側面が極めて重要だと考えていた。

アクセス

 これは、判断を行う権限や許可を誰が持つかということだ。判断の民主化を早くから提唱してきたアレッサンドロは、適切な意思決定を行うのは経営幹部に限らないことを知っていた。知識、データ、テクノロジーの普及に伴い、判断力も広く分散しなければならない。

 企業は生成AIを活用し、拡張する方法を理解する必要があり、そのアクセスを禁止しようとするのは無駄な努力である。従業員がこれらのツールの価値を引き出すあらゆる方法にアクセスできるようにすることは、変革の一部であり、当然ながら安全かつ管理された方法で行わなければならない。そのためには、信頼とコミュニケーションが必要だ。リーダーは、新たなユースケースや手法は、トップダウンではなくボトムアップで生まれると考えるべきである。