2. どのような仕事を道徳的に「純粋」と見なすかを考え直す

 道徳的な目覚めに伴う不快感に対処するためには、キャリアの道徳的な「純粋性」に関して、自分が信じている観念を明らかにし、その観念を見直さなくてはならない場合が多い。一言で言えば、どのような仕事と職が道徳的に正しいかという認識を変えなくてはならないケースが多いのだ。プロフェッショナルたちが参加する同業者コミュニティはことごとく、この点に共通認識を持っている。

 ジャーナリストの間では、伝統的な報道機関の職が道徳的に「純粋」だと認識されている場合が多い。その種の報道機関は、ニュースに関して偏見を排して真実を語るという道徳的な価値を尊重すると標榜しているからだ。『ワシントン・ポスト』紙の掲げているスローガンである「民主主義は暗闇の中で死ぬ」は、自社の従業員が行なっていることに明確に道徳的な価値を認める言葉といえるだろう。

 人々がキャリアの道徳的な「純粋性」に関する固定観念を抱く背景には、道徳的に「純粋」な職に就くためには、私生活の一部を犠牲にしたり、自分自身のニーズを後回しにしたりすることを覚悟すべきだという考え方がある。ジャーナリストの場合は、たいてい給料を犠牲にしなくてはならない。

 筆者らが話を聞いたベテラン記者の一人は、道徳的なキャリアと経済的な安定の間のトレードオフの関係について語っている。「真実を報じたい。情報操作に手を染めたくない。公正な仕事を心掛けたい。お金のために仕事を選ぶつもりはない。私はそう思うからこそ、給料が下がっても(報道機関に)転職したのです」

 キャリアの道徳的な「純粋性」と引き換えに、人々が私生活で払う犠牲は、お金に関わるものばかりではない。筆者らが研究したチャータースクールの教員たちは、子どもたちのためにプライベートの時間を犠牲にしていた。また、ある研究によると、国際救援機関の職員たちは、仕事のために、安定した人間関係を犠牲にしているという。

 しかし、永遠にこうした犠牲を払い続けることは難しい。筆者らが行った研究によると、人々は次第に、キャリアの「純粋性」に関して自分の業種に浸透している観念と道徳観に疑問を抱くようになり、さらに創造的な方法により自身の道徳的な価値観を実現できないかと模索し始めることが多い。

 筆者らがインタビューしたジャーナリストたちの中には、以前は伝統的な報道機関で過酷な労働を強いられていたけれど、それまでとは性格が異なる職場に移ることにより、自分の道徳的な価値観に沿って仕事をし、しかも私的な犠牲をあまり払わずに済むようになった人たちもいた。大学や研究機関に移籍した人たちもいたし、新しい報道機関を自分で立ち上げた人たちもいる。しかし、既存の道徳観を脱却するに当たっては、どのコミュニティに道徳上の指針を求めて、どのコミュニティで道徳的に評価されたいと思うかを変更しなくてはならない。

3. 自分と同じ道徳的な価値観を持つコミュニティを探す

 本稿で取り上げてきた事例からも明らかなように、道徳的な価値観を貫こうとすれば、現在のキャリアとの衝突が起きる場合がある。しかし、そのような衝突が起きた場合でも、人々はすぐには変化を起こさないことが多い。いまのキャリアを辞めるという選択をすると、職場の同僚や雇用主から批判的な目で見られるのではないかと恐れることが理由だ。

 筆者らの研究によると、みずからの道徳的な価値観に沿ったキャリアを築くには、どのような人たちに道徳上の指針を求めて、どのような人たちに道徳的に評価されたいと思うかを改めなくてはならないことが多い。とりわけ、キャリアの追求と道徳的な価値観の追求の両方を後押ししてくれる人たちを探すことが重要になる。

 プロフェッショナルがそれまでの職に留まりつつ、道徳面での現状を改めようとする場合は、しばしば仕事以外の場で評価と安心を得る必要がある。病院の新生児集中治療室(NICU)で働く看護師は、道徳的な目覚めを経験した後も職を変えなかったが、患者のケアに関して道徳的なジレンマに直面した時は、病院の同僚ではなく、夫や友人たちに安心と指針を求めたという。

 伝統的なキャリアを離れて道徳的な価値観を追求することを選択したプロフェッショナルたちも、職場以外の場に道徳的な後押しを求めている場合が多い。みずからの道徳的な価値観に沿ったキャリアを築くためにフリーランスに転身したジャーナリストたちは、自分が道徳的な仕事をしているという評価を、業界内ではなく、世論と読者に求める必要があると述べている。

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 仕事を取り巻く環境は変化し続けている。しかし、みずからの道徳的な価値観に沿ったキャリアを築きたいという人々の思いは、どの時代も変わらない。それを実践することは容易でないが、その価値は非常に大きい。私たちは、時間とエネルギーのかなりの割合を仕事に費やしており、自分の道徳的な価値観に沿った働き方ができるかどうかは極めて大きな意味を持つのだ。

 その点、本稿で述べてきたように、筆者らの研究によると、みずからの「道徳的な目覚め」に意識を向けること、どのような仕事を道徳的に「純粋」と見なすかを考え直すこと、そして自分と同じ道徳的な価値観を持つコミュニティを探すことを通じて、私たちは自分の道徳的な価値観を尊重しつつ、キャリアを築くことが可能になる。


"3 Ways to Live Out Your Values at Work," HBR.org, September 27, 2023.