チームの乱立が従業員のマイクロストレスを急増させたか

 プロジェクトごとに編成されるチームに依存する組織の予期せぬ結末の一つは、効率的なコラボレーションに不可欠な信頼関係を構築する時間が少ないことである。それが繰り返されるのは、多くの組織が、従業員に(主要なチームに加えて)5つか6つのチーム活動に貢献することを要求するうえに、チームのサイズを15人前後と大きくしすぎるからだ。

 チームの成長がトラブルの原因にならないようにするには、「柔軟性」を非効率にしてはならない。大量退職時代(グレート・レジグネーション)を迎え、職場内でも「静かな退職」(クワイエット・クイッティング)が起きている中、優秀な人材を惹きつけ、維持しようとした組織の一部は、タレントマーケットプレイスを導入した。この人材マッチングシステムによって、キャリアアップを図る従業員が、自分のやりたいプロジェクトやポジションを見つけられるようになった。人材確保のために善意で取られた手段であり、従業員にも歓迎されているが、ほとんどの組織で考慮していなかった非効率性をネットワークに生み出した。従業員が去っていくチームと入ってくるチームの双方で、新しい人材と協力関係を築かなくてはならないため、マイクロストレスを引き起こすのだ。

 あるライフサイエンス企業は、人間関係コスト(チームメンバーがしょっちゅう変わることが協力関係や生産性に与える「交代コスト」)をモデル化して、どんな従業員でも1年3カ月以下でポジションやチームが変わるのは不合理であると判断した。これより短期間では、チームと従業員の両方がその機会を最適化できないという。

 出社勤務再開の計画が隠れたストレスを生み出さないようにする注意も必要だ。i4cp(企業生産性研究所)の研究によると、約80%の企業が従業員に週3日の出社を義務づけている。そのダメージを和らげ、柔軟性を確保するために、これらの企業の約半数は、出社日を従業員が選べるようにしている。

 残念ながら、組織が協力してほしいと思っている従業員が、別々の出社日を選ぶと、この善意の取り組みも新たなマイクロストレスの原因となる。こうしたことを成り行きに任せると、従業員のやる気が低下するだけでなく、イノベーションや生産性も低下する。こうした事態を防ぐために、組織ネットワーク分析(従業員の仕事関係をマッピングする方法)と呼ばれる手法を使って、一定間隔で出社する必要があるグループを決めている組織もある。このような分析を使うと、リーダーは出社勤務再開戦略における3つの重要な問いに答えやすくなる。

・誰と誰を、同時に出社させる必要があるか、どのような間隔で対面とバーチャルの交流をさせるべきか。
・いまや限定的になった対面時には、どの仕事を優先させるべきか。
・ハイブリッドモデルへの移行をどのように管理すれば、最も抵抗が少なくて済むか。

 このモデルは、ハイブリッド勤務が仕事の効率改善に役立つことを示すことで、従業員に対面での交流を再開するよう動機づける助けにもなる。

従業員の日常的なやり取りの中で、パーパスに対する意識を築けているか

 組織は、テクノロジーを使って効率的に仕事を処理することに長けてきた。いまどき、ズームで迅速に対応できないことなどあるだろうか。だが、仕事がテクノロジーを中心に回るようになると、取引的になり、自分の仕事が会社のパーパスにどう貢献しているか従業員に理解させる機会が失われてしまう。

 そのような問題を回避するために、賢明な企業は、パ―パスと、自分のグループがそれにどう貢献しているかを話し合う機会をつくっている。全員が目指すゴールをつくり、伝えるのはリーダーの仕事だ。それがマイクロストレスの海に埋もれてしまわないようにしよう。自分がどのようにパーパスに貢献しているかを明確に理解できれば、従業員は仕事に優先順位をつけやすくなる。パーパスに貢献するために不可欠な仕事(と不可欠でない仕事)は何かを話し合い、それに沿ってチームが仕事の優先順位をつけたり、仕事の再設計をしたりするようにしよう。

 多くの組織は、全社的なパーパスに従業員を結集させることに重点を置きがちだが、筆者らの研究によると、パーパスは同僚との日常的な交流にも見出すことができることを示唆している。たとえば、従業員は「全員でやっている」という感覚をもたらしてくれる「共創」(お互いのアイデアを活かし合うことで優れたアイデアが生まれる瞬間)に有意義なパーパスを見出すことができる。何かに一緒に取り組む小さな瞬間は、リアルなつながりを生み出すものだ。それは従業員の日常にあふれるマイクロストレスに対する解毒剤のような役割を果たす。

 最後に、リーダーはマイクロストレスが自分と自分のチームに与える影響を過小評価してはならない。自分が知らずしらずのうちにチームにマイクロストレスを与えているやり取りに目を光らせよう。たとえば、チームにやや突拍子もない期待を示したり、どのような成果が求められているかを明確に伝えなかったり、部下の仕事をマイクロマネージしたりといったことがないか、振り返ってほしい。

 他人にマイクロストレスを与えると、間違いなく自分にブーメランとなって返ってくる。リーダーはみずからが不必要なマイクロストレスの原因になっていることを認識し、軌道修正を試みれば、チームのストレスを軽減できるだけでなく、自分自身にかけているストレスも軽減できるのだ。


"What's Fueling Burnout in Your Organization?" HBR.org, October 04, 2023.