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激増するコラボレーションがもたらすストレス
世界中の組織が、かつてないレベルでバーンアウト(燃え尽き症候群)を経験している。それは「静かな退職」やイノベーションの低下、さらには医療費の高騰という形で、組織に大きな(しかし十分認識されていない)コストとなってのしかかっている。その原因として、仕事量の増加が挙げられることが多い。しかし、筆者らの研究によって、仕事そのものの量はさほど増えておらず、コラボレーションを求められる仕事の量が増加していることがわかった。
つまり、仕事を成し遂げるために取り組まなければならないコラボレーションの量と頻度(筆者らがコラボレーション・フットプリントと呼ぶもの)が、過去15年間に増加し、ストレスに直面する機会が飛躍的に増えたのだ。これはとりわけ誤解や足並みの乱れ、仕事量とキャパシティの不均衡が生じる可能性を高める。これらすべてが組み合わさって、日常的なストレスを生み出している。
このストレスの一つの形が、筆者らが「マイクロストレス」と呼ぶものだ。すなわち同僚とのやり取りから生じる小さなストレスのことで、日常的なものに感じられるが、蓄積すると巨大になる。筆者らがハイパフォーマーを詳しく調べたところ、マイクロストレスが個人にもチームにも破壊的な影響を与えることが明らかになった。チームレベルでは、この種のストレスはネットワークや人間関係を通じて伝播する。
大量の仕事を抱えたチームのストレスを軽減する方法を見つけるのは難しいように思えるかもしれないが、リーダーには自由に使える手段が意外とたくさんある。個人の対処方法に関するコーチングだけでなく、集団的な職場環境における体系的な改善に目を向けてもよい。筆者らは、リーダーが行うべきにもかかわらず、見過ごされている4つのマイクロストレス軽減策を発見した。本稿では、その実行のためにリーダーがみずからに投げかけるべき重要な4つの問いを紹介しよう。
組織の構造的な複雑さを軽減できるか
組織には、組織ゆえの複雑さが何十年にもわたりたまっている。そこで伝統的な階層構造で管理の範囲や各階層を拡大する(直属の部下を増やして、現場スタッフと最高経営幹部の間の階層を減らす)だけでなく、マトリックス化やネットワーク化などによるアジャイルな働き方への移行といった取り組みが行われてきた。
こうした新しい構造は、柔軟性を高めるうえでは有効になるが、従業員1人当たりに要求されるやり取りの数を増やすことになり、意図せずして複雑性を高めてきた。どこかからアドバイスされて、管理範囲(リーダー1人当たりの部下の数)を一律8人とする組織構造へと移行する組織をよく見かける。だが、こうした効率化の努力は、実際の仕事に必要とされるコラボレーションを考慮していない。
筆者の一人であるロブ・クロスの研究によると、コラボレーション・フットプリントはこの15年間で50%以上増えており、どんな組織にも小さなストレスが蔓延する機会を著しく増やしている。放置すると、こうした複雑さはまたたく間に組織に蓄積され、マイクロストレスの増殖を引き起こしかねない。
階層をなくすことが解決策になるように見えるかもしれないが、そうすると多くの組織が、コラボレーションの重要性を考えた時、ありえないほど大きな管理範囲に移行することになる(管理範囲を12人以上に増やす組織さえある)。このようなフラットな組織構造では、従業員は、公式・非公式を問わず、何人もいる直属の上司の相反する目標に対処しなければならず、ストレスになってしまう。
階層をなくすことは、コスト分析や意思決定の面では魅力的だが、業務にまつわる目に見えにくい非効率性をもたらすことが多い。現在、多くのチームが実力を発揮できないのは、さまざまなステークホルダーからさまざまな依頼が舞い込んできて、優先課題が過多になっているからだ。組織の上層で調整や優先順位付けがきちんとなされていないことも原因だろう。
これを解決する方法の一つは、明確なプロセスを定めて過剰な複雑性を取り除くことだ。階層を取り除くこれまでの努力をすべて元に戻すことは不可能かもしれないが、構造的な複雑性から不要なストレスを感じさせる可能性を根絶する簡単な方法はいくつかある。ほとんどの企業は、複雑性を増す新たな要素を取り込んでいる一方で、それを取り除く体系立った継続的努力はしていない。
ネットフリックスは、不要な複雑性を見つけて取り除くことを重視する数少ない企業の一つだ。同社のポリシーには、「私たちは(中略)ビジネスをできるだけシンプルに保つ努力をする(中略)すべてのことにポリシーが必要なわけではない」とある。新しいチームや手順を導入しなければならない場合は、ひとまず暫定策とすることを検討しよう。また、役目が終わったら解散するなど明確な廃止条項を定めれば、時間が経つにつれて複雑さが増す状況を回避できる。
また、商品ポートフォリオ(複雑さを高める主要因であることが多い)を継続的に簡素化して、複雑さをコントロールすることもできる。食料品スーパーマーケットのトレーダー・ジョーズは、SKU(最小在庫管理単位)を業界平均の10%以下に抑える方針を取っている。玩具大手のレゴグループの場合、製造と物流の複雑さを抑えるため、商品に含まれるブロックの色と種類をコントロールしている。
何よりも、紙の上での効率ばかり考えるのではなく、日々タスクをこなさなくてはいけないスタッフに求められるコラボレーションの量を考えよう。
オフサイト研修などで経営幹部に、もう一本メールや会議、あるいは電話をしたいかと聞くと、誰も手を挙げない。スタッフ間のコミュニケーションやつながりがもっと複雑で、もっとマトリックス化されて、もっと必要とされるほど、より暫定的なものであればあるほど、マイクロストレスが仕事の有効性を阻害することになる。
ワークフローは合理的か
組織は、ますます速いペースでチームを結成し、仕事を実行して解散するという、アジャイルなネットワーク中心の構造へと容赦なく移行してきた。こうすると仕事のスピードは上がるが、極端に言えば、プロセス革命からもたらされたスケールメリットや効率は失われる。プロジェクトチームの結成・再結成を繰り返すには、調整がいちだんと必要になり、仕事を成し遂げるためには、個々の社員の英雄的な働きに頼るケースが多い。しかし、それは持続可能な戦略ではなく、バーンアウトに陥る可能性を際限なく誘発することになる。
電動工具メーカーのスタンレー・ブラック・アンド・デッカーCEOのドン・アランは、コロナ禍で人事部が得た重要な教訓の一つとして、「人だけでなく、プロセスに頼ったほうがよい」と語った。「そうすれば不要なストレスや、バーンアウトを生み出さずに済む」
職場のあらゆる領域でテクノロジーを多用すれば、仕事とコミュニケーションを簡素化できるのは間違いないが、代わりに複雑さが増し、必要な仕事が増えて、ストレスの原因となることも多い。
多くの場合、組織は仕事をやり遂げるのに6~9種類のコラボレーション手段を活用している。ミーティング(オンラインと対面)、メール、インスタントメッセージ(スラックなど)、チームのコラボレーションスペース、電話、テキストメッセージなどだ。こうしたツールの使い方は人によって異なるから、非効率になることは避けられない。
たとえば、手の込んだメールを書くのが好きで、ようやく10段落目になって自分の希望を書いてくる同僚がいる。また、極端な例では、あるスタッフがインスタントメッセージなどで素早く問題を解決したものの、そのやり取りには透明性が欠けているため、インスタントメッセージ上で決定が下されたことを知らないチームメートとの間にずれが生じる場合がある。
こうしたストレスを抑える方法の一つは、コラボレーションの規範を定めて合意しておくことだ。たとえば、メールは箇条書きにすることに合意する。また、より長い説明が必要な場合や、意見の相違が生じそうな場合は、対面で話し合うという合意をしておく。実際に、すべてのコラボレーションツールで維持したいポジティブな規範を3つ、やめせたいネガティブな規範を3つ(夜中にメールする、どうでもいい返事を全員に送信するなど)について合意するだけで、チーム全体で8~12%の時間の節約になり、実際の仕事に集中できる時間が増えることがわかった。必ずしもテクノロジーそのものが悪いわけではなく、それを使うことで生まれる文化が、マイクロストレスの忍び寄る余地を生む。
チームで使用するツールを限定して、業務に組み込み、人間同士のやり取りから生じる負担を減らすこともできる。ありきたりな作業をなくすか減らすテクノロジーを最大限活用しよう。たとえば、スラックにワークフローを設定したり、定例ミーティングを設定したりして、メンバーに設定や調整を任せることで必要な確認が抜けてしまわないようにしよう。
ツールを習得するために一定の時間を割き、生産性を高めるヒントやコツを共有するようチームに促そう。また、やっかいなサインイン手続きがあったり、互換性が乏しかったりして、かえって新たな手間や複雑性をもたらすツールの導入は避けたほうがよい。どのツールが生産性向上につながるかについて、チームが相談を受けないケースは実に多い。