この求職者の変化は、企業に明らかな影響を与えた。創業年数が短いスタートアップほど、特に質の高い候補者からの応募が減少し、人材プールの減少につながった。また、同じ求人でも、時間の経過とともに応募が減少した。つまり、不況時にはスタートアップの労働需要が減少するだけでなく、そのほかの求人でも採用が難しくなったということだ。スタートアップが求人を埋めるのに苦労する一方で、既存企業は求職者の関心の変化がもたらす恩恵を受け、人材獲得に成功した。

 何が労働者の安全への逃避を促しているのだろうか。考えられる理由は2つある。

 第1に、不況時に労働者が全般的にリスク回避志向を強め、雇用の安定を求める傾向が強まる可能性がある。第2に、労働者が、雇用主によるリスクの大きさの違いについて、見方を変える可能性がある。

 筆者らの研究結果は、前者を示唆している。なぜなら、成長し、成功しているスタートアップも、そうでないスタートアップも応募者が減少していたからだ。特定の雇用主のリスクの高さを再評価したというよりも、リスク許容度が全体的に低下したと考えるほうが妥当だ。もし前者であれば、苦戦しているスタートアップは成功しているスタートアップよりも大きな打撃を受けるはずである。したがって、筆者らの研究結果は、リスク回避志向の高まりによって、求職者は企業の質にかかわらず、すべてのスタートアップを避けるようになるという考えと一致する。

 ほかの不況期よりも極端だったコロナ不況の特殊な状況以外にも、この研究結果が当てはまるのかと疑問に思う人もいるかもしれない。

 そこで筆者らは、コロナ不況期の経済的な期待の大幅な低下が、過去の不況期の低下と一致していることを示した。さらに、求職者の選好が、リモートワークが可能な企業や、健康に関する規定が厳格な企業へシフトしたことなど、研究結果に影響する可能性のあるコロナ特有の要因を排除するために、厳密な検証を行った。

 スタートアップが経済の混乱期に財務上の制約に悩まされることは、以前から認識されてきた。たいていの不況期にはベンチャーキャピタルからの資金調達は減少するという点で、コロナ不況は異例であった。筆者らの研究は、スタートアップにとってもう一つの重要な資源である人的資本もまた不況時に大きな負担にさらされ、「二重苦」に陥ることを強調することで、この認識に新たな観点を加えている。

 歴史的に、政策的介入は主にスタートアップの財務的な重荷を緩和することに向けられてきたが、スタートアップが直面する人材不足については無視されてきた。この人材不足は、スタートアップが生き残り、大規模な既存企業との競争に打ち勝つ能力を損なうおそれがあり、大きなリスクとなる。

 スタートアップが経済の不確実性を乗り切るには、政策立案者と起業家、双方ともに、これらの影響をより綿密に理解することが不可欠である。


"Research: In Recessions, Employees Avoid Jobs with Startups," HBR.org, September 29, 2023.