グーグルも導入した、新しい職務記述書のつくり方
Juan Moyano/Stocksy
サマリー:現代の仕事は急速に変化しており、従来のジョブディスクリプション(職務記述書)ではその状況に対応できていない。たとえば、戦略の変更によって、採用時の職務記述書と実際の仕事の内容が異なってしまうケースもあ... もっと見るりうる。本稿では、現代における職務記述書の役割を確認したうえで、柔軟性を持った職務記述書を作成する3つのアプローチを説明する。 閉じる

これまでの職務記述書が使い物にならない時代

 現代の仕事は急速に変化しており、従来のジョブディスクリプション(職務記述書)ではその状況に追いつけていない。新しいテクノロジーが従来のプロセスを破壊し、人々に新しいスキルが求められるようになった。また、企業はますますプロジェクトベースの仕事へと移行しており、それにつれて職務記述書は、従業員を長年フォローする静的で包括的な処方箋から、ニーズに基づき変化する動的な手引書へと進化し始めている。

 たとえば、あるタスクのために1人を採用したものの、4カ月後には別のタスクのほうが戦略的に優先すべきだと気づくかもしれない。元のタスクのために採用した従業員が、新たな優先タスクに適したスキルを持っていても、採用時の職務記述書を示して、仕事の内容が違うと言って断ってくる可能性もある。あるいは、新しいタスクを引き受けた場合、元の職務記述書はもはや最新の内容ではなくなる。

 ほとんどの職務記述書は、その従業員の中核的な業務の範囲にきっちり収まるため、部門横断的なコラボレーションへの意欲を低下させ、組織のサイロ化を助長する傾向もある。硬直的な職務記述書は、作成時は想定されていなかった新しいテクノロジーを試してみる意欲も失わせる。さらに、職務記述書の範囲が狭いと、従業員が能力を最大限に発揮できなくなり、不満を抱く可能性がある。

 これを受けて、企業は成果やスキル、チームに基づき、より柔軟な新しい方法で職務記述書に取り組み始めている。本稿では柔軟な職務記述書を作成するアプローチについて順を追って説明していくが、まずは職務記述書が今日のような形になった経緯と、現代における役割を確認しておこう。

なぜ職務記述書が必要か

 現代の職務記述書の起源は、産業革命に遡る。工場など大規模な組織が増えるに従い、役割と責任を明確に定義して、効率と生産性を高める必要が生じた。そのため、組織における肩書きと、それぞれにおける仕事の内容、責任、資格の概要を示した職務記述書が生まれた。

 20世紀半ばになると、職務記述書はいちだんと標準的になり、詳細になった。

 現在、職務記述書はいくつかの目的で使われている。

1. 採用:募集する職種にどのようなスキルや資格が必要かを明確に示すことで、応募者が自分が適任かどうか理解できるようにする。

2. 役割の明確化:ある役割の責任や仕事内容や期待されるレベルを明確にすることで、曖昧さや将来の対立を防ぐ。

3. 評価基準:従業員のパフォーマンスを評価する目安となる。

4. 人材管理:従業員の能力開発計画や報酬額を決める助けになると同時に、法的文書の役割を果たす。

 では、こうしたニーズに対応しつつ、柔軟性のある職務記述書をつくるにはどうすればよいのか。

より柔軟なアプローチ

 急速に変化するプロジェクトベースのポジションが増える中、企業では3つの新しいアプローチが定着しつつある。

成果重視の職務記述書

 一部の企業は、具体的なタスクや職務ではなく、期待される成果を職務記述書に明記するようになってきた。こうすれば、その結果を達成するための最善策は、従業員が柔軟に決められるため、イノベーションやイニシアティブを促すことができる。さらに重要なのは、状況に応じて従業員がそのやり方を変更できる点だ。

 たとえば、営業マネジャーの職務記述書は、「主要顧客と四半期に1回面談する」とか「営業報告書を毎月作成する」といったタスクを列挙するのではなく、「地域の売上げを15%増やす」とか「顧客維持率を10%高める」といった成果を記載する。

 グーグルは、成果重視の職務記述書を使うことで、優秀な人材のモチベーションを維持している。元グーグル人事担当上級副社長のラズロ・ボックは、次のように語っている。「グーグルでは、トップクラスの人材を惹きつけ維持するために、成果を重視した職務記述書が不可欠だ。自分に何が期待され、どのように評価されるかわかっていると、従業員のやる気は高まり、より熱心に仕事に取り組むようになる」

 たとえば、デザイン倫理担当者の職務記述書には、従来ならば、グーグルの検索アルゴリズムにバイアスが入っていないか毎月分析する、プライバシーリスクのログを最新に保つといったタスクが列挙されていたかもしれない。だが、成果重視の職務記述書では、グーグルのプロダクトに倫理リスクを発見すること、プロダクトの倫理的デザインについてガイドラインを作成することなど、広範な任務が与えられる。すると従業員も会社も、技術の進歩に応じて(グーグルのプロダクトに生成AI<人工知能>が組み込まれるなど)、デザイン倫理担当者の具体的な任務を調整する余地ができる。