スキル重視の職務記述書

 一方、職務記述書に、従業員がそのポジションで発揮する、あるいは身につけるスキルや能力を記載する企業もある。このアプローチでは、期待される成果ではなく、従業員の能力や、それが会社のプロジェクトにどのように活かせるかに重点が置かれる。

 このアプローチを取る場合、各ポジションに必要とされるスキルや資格を特定し、従業員がそうしたスキルを身につけられる研修やキャリアパスを用意する必要がある。その目的は、各従業員の能力や強みをフルに生かし、伸ばすことだ。これは従業員における仕事の満足度やパフォーマンスの向上につながる。また、企業は、特定のプロジェクトやイニシアティブに必要なスキルや経験を持つ人材から成るチームを迅速に編成できる。

 たとえば、優れたビジュアル化のスキルを持つデータアナリストは、複雑なデータモデルを作成する任務から、ビジュアルの優れた報告書を作成する任務へと、必要に応じてスムーズに移行できるだろう。この場合、企業は、高度なビジュアル化技術やデータ・ストーリーテリングなど、具体的なスキルを強化するための専門的なトレーニングを用意する。アナリストが持つ強みと幅広いスキルに注目することで、既存の専門性に磨きをかけるだけでなく、よりオールラウンドで融通の利くプロフェッショナルを育成できるのだ。

チームベースの職務記述書

 最後に、個人ベースで職務記述書を作成するのではなく、目標や期待される結果や成果物をチームに課す企業もある。各チームメンバーがどのような役割を担うかは、チームで決める仕組みだ。

 よく知られた例としては、スポティファイがある。同社では、具体的なミッションを与えられた「スクワッド」(分隊)と呼ばれる小規模なチームをいくつもつくり、そこに部門横断的に人材が配置される。各スクワッドは、チームとしての決定と、メンバーそれぞれの強みや好みに基づき、与えられた目標を一番うまく達成できる方法を自分たちで決める。チームは頻繁に会合を開き、問題点を話し合い、進捗状況を評価し、目標を調整し、役割分担から生じる対立やボトルネックを解決する。

問題を克服する

 伝統的な職務記述書を変えるには、変化に対する単純な抵抗意識だけでなく、多くの課題に対処しなくてはならない。

 最も基本的な課題は、職務と成績への期待が不明確であることだ。伝統的な職務記述書がなければ、従業員は自分が何を期待されているかをどこで知ればいいのか。明確な手引きがなければ、マネジャーはどうやって従業員のパフォーマンスを客観的に評価し、公正な報酬や昇進を確保できるのか。

 マネジャーがチームと協力して役割や責任を明確に定義し、各人の責任についてチームと共通の理解を得る方法はほかにもある。たとえば、あなたがソフトウェア開発チームのマネジャーで、会社はチームベースの職務記述書に移行中だとしよう。あなたはチームと協力して、各メンバーのスキルと能力を示す表を作成し、さらに「アジャイル管理」や「カンバンボード」といったツールを使って、仕事量を管理したり、各タスクの優先順位を管理できる。

 採用において、候補者が柔軟でダイナミックな職務に適応できるかどうかを知るためには、伝統的な面接(候補者の経験や資格を重視しがちだ)より、コンピテンシーに基づく面接のほうが有効だろう。

 人事考課では、360度フィードバックなどのツールを使うと、従業員のスキルや能力、チームへの貢献度など、さまざまな分野のパフォーマンスについて多面的に評価できる。

 よりやっかいな問題は、米国の公正労働基準法(FLSA)に基づく残業支払い免除の適用有無など、法的なコンプライアンスかもしれない。こうしたことは、正式な職務記述書がないと面倒になりうる。この場合、各従業員について、仕事の大まかな概要と詳細(残業代免除か非免除かの分類など)を記載した「職務コンプライアンス文書」を作成しておくと役に立つだろう。また、従業員の任務、責任、実際の労働時間をチェックして、労働基準に沿っていることを確認しよう。状況によっては、定期審査や人事ソフトウェアを使った詳細な記録が必要な場合もある。

 組織がアジャイルで即応性が高まり、テクノロジーが新しい形の仕事を可能にするにつれて、プロジェクトベースの仕事がさらに増え、より柔軟な職務記述書が必要になっていくだろう。このラディカルな破壊に対応するためには、考え方や文化のシフトが必要であり、個人やマネジャーやリーダー、そして組織が新しい働き方を試し、学び、適応できる必要がある。しかし、正しい考え方とアプローチを取れば、よりアジャイルで、即応性が高く、イノベーティブで、未来の課題に対処できる組織を生み出すことができる。


"A New Approach to Writing Job Descriptions," HBR.org, October 06, 2023.