不透明な未来でも通用する人材を育てる5つの方法
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サマリー:AI(人工知能)の導入や仕事の自動化が進み、不確実性が高まる時代においては、リスキリングやアップスキリングだけでなく「プレスキリング」が必要になる。つまり、将来の仕事や必要とされるスキルがわかる前から、... もっと見る人材を将来に向けて育成し、人々のキャリアの再構築を支援することだ。本稿では、プレスキリングの方法について、マクロ的な歴史傾向から推定し5つの提言をする。 閉じる

必要となるスキルがわかる前に人材育成に取り組む

 AI(人工知能)や仕事の自動化をめぐり、クリックを誘う大仰な見出しや、終末論的に恐怖心を煽る情報を広める人が多く見られる。だが、筆者が最新刊 I, Human: AI, Automation, and the Quest to Reclaim What Makes Us Unique(未訳)で強調しているように、あなたの職を奪うのはAIではなく、AIを使う人である可能性が高いとデータが明確に示している。

 あなたがAIを活用していなければ、なおさらだ。その意味では、AIの時代だからといって目新しいことはない。従来のディスラプティブなテクノロジーと同様に、AIは一部の仕事を消滅させる一方で、人間でなくてはできない新たな仕事を多く生み出している。

 マンパワーグループの最近のリポートで示されているように、雇用者の58%はAIが新たな雇用を生み出すと考えている。問題は、仕事の自動化によって職を奪われる人(実店舗の店長など)が、テクノロジーによって創出されるすべての新しい仕事(サイバーセキュリティアナリスト、デジタルマーケター、AI倫理学者など)に自動的にアクセスできるわけではないことだ。世界経済フォーラムによると、2025年までに従業員の半数が新しいテクノロジーに対応するためのリスキリングを必要とするようになる。そしてこの数字は、現在の生成AIがブームになる以前のものだ。

 スタンフォード大学教授のエリック・ブリニョルフソンの試算によれば、組織はテクノロジーに1ドル費やすごとに、人材と関連するプロセスにさらに9ドルを投資する必要がある。たとえば、適切なスキルセットと潜在能力を持つ人材の特定、適切なスキルの向上、適切なチェンジマネジメントプロセスの実現、従業員が潜在能力を発揮するための環境づくりなどである。実際、筆者の同僚のベッキー・フランクウィッツが共著論文で指摘したように、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の成否を分けるのは、実際のテクノロジーではなく、文字通り人的要因である人材だ。

 したがって、私たちには、リスキリングやアップスキリングだけでなく、「プレスキリング」が必要だ。将来の仕事や必要とされるスキルがわかる前から、人材を将来に向けて育成し、人々のキャリアの再構築を支援することである。

先の見えない未来に向けた従業員のプレスキリング

 これは、どうやって実行すればよいのか。正確な方法は誰にもわからないが、未来に関するデータはないため、マクロ的な歴史傾向から推定し、最近の経済と人的資本のパターンから教訓を得ることで、大まかに5つの提言ができる。

1. 潜在能力に注目する

 現在のスキルや専門知識、実績の寿命が短くなるにつれ、人材を採用し、昇進させる際には過去に「何をしたか」ではなく、「何ができるか」を重視することが望ましい。プログラミングやデータマイニングなどのハードスキルよりも、学習能力、好奇心、レジリエンス、適応力などのソフトスキルを優先し、現代の採用において最重要視されているいまの技術的専門知識や過去の職歴よりも、エンプロイアビリティ(雇用に値する能力)の基礎となる要素に焦点を当てるとよい。

 将来の仕事がどのようなものになるかはわからない。しかし簡単に言えば、好奇心が旺盛で、感情的な知性に富み、レジリエンスが高く、意欲的で、知的な人であれば、一般的に将来の仕事を遂行するために必要なことを学び、テクノロジーでは代替できない人間的な価値を提供するのに適していると考えられる。潜在能力に関する利点の一つは、それを測定するための信頼できる実証済みの方法、特に心理学的アセスメントツールがあることだ。そのツールは、潜在能力を高めるために使用することもできる。規範的でデータ主導型のフィードバックを通じて、みずからの現状とあるべき状態のギャップを特定するのに役立つのである(次の項目を参照)。

2. 重要なフィードバックを提供する

 AIが登場する以前から、人々の才能や潜在能力を最適なキャリアの選択に結びつけることには大きな混乱や誤解があった。現在、状況はさらに複雑化しており、ほとんどの従業員(およびマネジャー)は、自分が将来何をするのか、自分の経験や専門知識、そしてキャリアに投資したすべての時間やお金は意味があるのか、あるとすれば、どこで役立つのかと疑問に思っている。

 そこでカギとなるのは、データに基づくフィードバック(アセスメント、社内データ、同僚からの評価など)を共有すること、そして自分の興味やスキルが組織にとって将来の財産となりうるかを周囲に理解してもらうことであるる。これは、リーダーをコーチやタレントエージェントととらえることを意味し、リーダーの主な仕事は、人々の才能を積極的に育て、潜在能力を最大限に引き出すことになる。忘れてはならないのは、ほとんどの人はフィードバックを十分に受けておらず、またフィードバックの3分の2は望ましい結果を出せていない。たとえ「聞きたくない」と思っていても「聞くべきこと」を伝えること、そして何よりも、従業員みずからが知らなかったことや、向上したいと思わせるような内容を伝えることが大切だ。

 重要なのは、スキルギャップに関するフィードバックを提供するだけでは不十分だということだ。組織の側は、関連するスキルの向上に対してインセンティブを与え、そのスキルを磨くための最も効率的かつ魅力的でインパクトのあるプログラムを提供する必要がある。