3. 才能を広げることに注力する
スペシャリストになることを期待したり、特定の仕事を強制したりするのではなく、従業員の才能の幅を広げたり拡大したりすることに重点を置こう。その人の強みを活かすのではなく、「新たな」強みを伸ばす手助けをすることで、より多才な人材になるように支援するのだ。
誰しも「より少ない労力でより多くのこと」ができるように、現在のスキルと世界を適応させる。そして、ストレッチ目標や新しいスキルの習得よりも、効率よく現状維持するために最適化しようとする生来の気質がある。現実には、従業員がどの専門分野であれ、トップ1%(定義上、ごく一部の人にしか当てはまらない)でない限り、「何でも屋」を目指したほうがよい。新しいタスクやスキルを習得するたびに、他のタスクや仕事、キャリアに密接に関係するさらに新しい基本的スキルを多く学べるからだ。
これはまた、ダイバーシティとインクルージョンを高めることにもなる。ハーバード大学教授のジョセフ・フラーとスタンフォード・デジタル・エコノミー研究所のクリスティーナ・ランガー、およびバーニング・グラス研究所のマット・シーゲルマンはこう指摘する。「スキルに基づく採用への移行が進めば、学位インフレが原因でしばしば門戸を閉ざされていた多くの候補者に、採用への道が開かれるだろう」。多様で創造的な人材が見つからないと嘆く組織は、これまでと同じ場所や方法で人材を探すのをやめるべきだ。
4. 中間管理職へ投資する
ハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー C. エドモンドソンと筆者が最近指摘したように、管理職は仕事における人間の潜在能力を引き出すカギを握っている。とりわけ、才能を活性化し、活力を与え、再考することが課題である場合はそうだ。AI時代以前から、中間管理職の役割は非常に重要であり、チームパフォーマンスの30~40%を占めていたが、いまその役割は複雑さを増している。
かつてマネジャーとは、技術的な専門知識に定評があり、インディビジュアルコントリビューター(管理職ではなく、部下を持たない専門職)として確固たる実績を残した人物のことだった。今日では、「伝統的な」管理職の仕事(適切な人材を採用し、適切な仕事と指示を与え、フィードバックによってモチベーションを高め、チームがパフォーマンスを上げるようにする)だけでなく、非常に複雑な新しい課題も理解する必要がある。たとえば、ハイブリッドチームやバーチャルチームの管理、心理的安全性の創出、DEIB(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン、ビロンギング)の向上(自分とは異なる人材の採用とモチベーションの向上を含む)、人間とAIが共存する時代と、それがもたらす不確実性とストレスを切り抜けるための支援などである。
要するに、いまは中間管理職に投資する絶好の機会なのだ。とりわけ、中間管理職の重要なソフトスキルを縦横に操れるようになるべきだ。中間管理職が技術の進歩に対応し、新たなイノベーションから期待される価値の実現を組織内で推進できるようになることで、将来的な可能性をみずから高めることができる。
5. リーダーシップスキルへ投資する
AI主導の未来を心配しつつも、人間がその一部を担うと考えているのであれば、リーダーのプレスキリングを心配すべきだ。なぜなら、リーダーは将来、不確実な時代になっても、依然として会社の戦略を設定し、売り込み、企業文化の進化を推進する任務を担うからだ。これは、(ステップ1で述べたように)適切なソフトスキルを持つ人材を登用し、そのスキルを高めることである。同時に、今日のトップリーダーが必ずしも将来のリーダーにはならないと理解し、前に進むことでもある。今日のトップリーダーの成功は、過去にうまくいったことを再現することに基づいているため、新しいことを変えたり学んだりする妨げになりがちだからだ。
重要なこととして、リーダーへの投資とはすなわち、人々を効果的に協働させ、高い業績を上げるチームにするためのスキルを磨くことを指す。それは、個人を上級職に昇進させたり、地位を美化したりすることではない。ましてや「ポテンシャルの高さ」を裏づける人気投票のことでもない。AIが必ず存在しつつも、理想的には「人間とAIの時代」として定義されるべき未来に、他者を鼓舞し、ともに歩むために人々が持つべき資質を指しているのである。
これは今日のリーダーの重要な課題である。組織がリーダーを選抜するシステムを改め、過去の成功を再現することから、将来のスキルの選択と育成にシフトできれば、他のすべての課題は容易なものになる。具体的には「カルチャーフィット」、過去の実績、技術的な専門知識などを重視することをやめ、学習能力、好奇心、誠実さ、対人スキルに重点を置くことだ。さらに重要なことは、多様性を活用することに真に関心のある組織ならば、インクルーシブリーダーシップや認知的多様性を優先し、リーダーの同質性を打破しなければならない。
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テクノロジーは常に変化している。その変化が実際に進歩をもたらすものとなるためには、人間がテクノロジーの潜在的な恩恵を享受できるよう、関連する才能を伸ばし、活用できるようにあらゆる努力をしなければならない。これはけっして当たり前のことではないが、私たちは、みずからの技術的発明に適応し続ける人類の能力を信じるべきだ。
"5 Ways to Develop Talent for an Unpredictable Future," HBR.org, October 09, 2023.