(7)意思決定の能力を高める

 多様な意見が存在するだけでなく、それらが統合された時、意思決定の質が向上する。ある興味深い研究によると、個人よりもチームの意思決定のほうが優れていた。男性だけのチームの場合は、優れた意思決定を行う確率が約60%だったが、ジェンダーの多様性があるチームの場合は、それが約75%まで高まった。ジェンダーの多様性に加え、地理的な多様性や、メンバーの年齢差が20歳以上ある場合は、その確率が87%まで高まったのだ。

(8)リスクマネジメントに役立つ

 2008年の金融危機を受けて、(この危機で破綻した投資銀行大手リーマン・ブラザーズならぬ)「リーマン・シスターズ」が必要だったのではないかという真剣な議論があった。重要な意思決定を行う場にもっと女性がいれば、悲惨な結果を避けられたのではないか、というもので、この真偽を検証するための数々の研究が行われてきた。

 ある研究によると、企業の最高幹部層や取締役会にジェンダーの多様性があれば、企業のリスクに対する姿勢がより健全になる傾向がある。過度にリスクを回避しようとするのではなく、かといって過度にリスクを追求することもなく、全般的なパフォーマンスの向上に多様性が関連しているとわかったのだ。

(9)株価を上昇させる

 インクルーシブな職場環境が実現している企業は、そうでない企業に比べて、株主リターンが10%~30%高いという推計がある。投資銀行大手ゴールドマン・サックスが2020年に、取締役会が白人の異性愛者の男性だけで構成されている企業のIPO(新規株式公開)を手掛けない方針を発表したのは、この点が理由なのかもしれない。

 インクルージョンを高めることによって得られるリターンの大きさは、企業によって異なるだろうが、筆者らは企業関係者によくこう問いかける。「これほどのリターンを実現するために、あなたの会社でほかに実践していることがありますか」

(10)売上げと利益を増やす

 以上の1~9で述べた理由から、インクルージョンを高めることは、最終的に売上げと利益の両方の増加につながる。有能な人材が集まり、チームのエンゲージメントが高まることで、イノベーションと市場開拓の能力が向上し、企業により高い収益をもたらすのだ。一方、チームの意思決定能力の向上、従業員の定着率アップ、生産性の向上につながることから、資本効率が高まる。さらに、インクルーシブな企業は、乱気流に巻き込まれた時も、安全に着陸できる可能性が高い。

 理想は、世界中のどの組織もインクルーシブになることだ。しかし、そうした時代が訪れるまでは、インクルージョンほど企業に競争優位性をもたらすものはほかにないだろう。

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 本稿は、2人の近著Move Fast and Fix Thingsからの抜粋に編集を加えたものである。


"10 Reasons Why Inclusion Is a Competitive Advantage," HBR.org, October 10, 2023.