誰もが活躍できる環境をつくる10のメリット
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サマリー:年代や属性、出自などを問わず、誰もが活躍できる職場環境をつくることで、チームの業績は向上することがわかっている。本稿では、リーダーが難題に対処し、素早く変化を起こすための戦略について述べたMove Fast an... もっと見るd Fix Things(未訳)の共著者であるフランシス・フライとアン・モリスが、そうしたインクルーシブな職場を実現することによって得られる10のメリットを伝える。 閉じる

インクルーシブな職場がもたらす効果

 フェイスブックは、「素早く動き、破壊せよ」を非公式のモットーにしてきた。しかし、リーダーシップ論の専門家であるフランシス・フライとアン・モリスに言わせれば、このモットーには重大な欠陥がある。リーダーがこのモットーに従っていては偉大な企業を築けない、というのである。

 傑出したリーダーは、「素早く動き、修正する」ことを実践している。自社が直面している手ごわい問題を解決しつつ、より強力な組織を築くのだ。フライとモリスの新著Move Fast and Fix Things(未訳)では、リーダーが難しい課題に対処し、素早く変化を起こすための5つの戦略を紹介している。

1. 自社が直面している真の問題を明らかにする(「変革の足を引っ張る組織に共通する10の特徴」を参照)
2. ステークホルダーとの信頼を構築(もしくは再構築)する(「信頼されない組織に共通する10の問題」を参照)
3. チーム全体が成功できるように、インクルーシブ(包摂的)な環境をつくる
4. 起こしたい変化について、説得力あるストーリーを語る
5. 切迫感を持って、計画を実行に移す

 本連載は5回にわたり、上記のそれぞれの戦略に関わる記述を同書から抜粋して紹介する。本稿はその第3回で、テーマはインクルージョン(包摂性)だ。フライとモリスの定義によれば、インクルージョンとは、人々が複雑で多面的な存在として持つ違いを乗り越えるだけでなく、その違いを力に変えて、誰もが活躍できる環境を生み出す活動のことだ。

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 インクルージョンのように複雑な要素を数値で評価することは容易でないものの、研究者はその方法論に磨きをかけてきた。インクルージョンが企業の業績に及ぼす影響を明らかにし、それを定量的に評価しようとする研究者もいる。そのような研究を通じて得た知見には説得力がある。研究の多くはいまだに過小評価されているため、本稿では、筆者らが有益と考えるものをいくつか紹介したい。

(1)有能な人材の採用に役立つ

 職場のインクルージョンを高めることで、マイノリティの人々だけでなく、あらゆるタイプの有能な人材に対しても、あなたの企業が「健全な職場を築いており、集団として傑出した成果を上げるのに必要な条件を理解している」ことを伝えられる。

 採用候補者は、採用活動のあり方から福利厚生制度の詳細まで、企業のあらゆる側面にインクルージョンの要素を求めている。企業は、その点を頭に入れておくべきだ。同性カップル向けの不妊治療給付や退役軍人向けのメンターシッププログラムなどの制度は、すべての人にとって必要なものではない。だが、このような制度があるだけで、採用候補者はその企業が多様性を尊重していると考える。

(2)有能な人材をつなぎとめる

 インクルージョンの水準を評価して企業に加わった人々は、それに関する約束が守られていれば、長く働き続ける。一部の従業員層(特に退役軍人)は、自身の貢献が企業に評価されることで、勤務先に対して高いロイヤルティ(忠誠心)を示す可能性がある。インクルージョンは、あらゆる組織階層において従業員の定着率を高める効果を持つのだ。

(3)従業員エンゲージメントを向上させる

 従業員エンゲージメントのスコアは、「インクルーシブである」と見なされている企業ほど高い傾向がある。その理由を説明するデータがある。インクルーシブな企業は、そうでない企業に比べて、コーチングによって従業員のパフォーマンスを向上させる能力が3倍近く高く、リーダー候補の発掘と育成において4倍近く優れているという。

 従業員の成長は、従業員エンゲージメント向上のカギを握る要素である。そして、インクルージョンを高めることが、その成長において大きな後押しにつながるだろう。

(4)レジリエンスを強化する

 社内でさまざまなタイプの人たちが活躍していれば、企業は危機に対応する能力が高まり、(筆者らのお気に入りの比喩を使えば)「乱気流の時代」を乗り切りやすい。そのような企業は、変化を受け入れる能力と適応力、人事関連の問題への対応力が高い。興味深いデータを一つ紹介しよう。2007年から2009年の間に、米国の代表的な株価指数であるS&P500は35%下落した(この時期どんなことがあったかはご記憶だろう)が、インクルーシブな企業の株価は逆方向に動いた。実に14%上昇したのである。

(5)市場の拡大につながる

 インクルーシブなチームは、新市場の特定と開拓に優れている。多様な人々が働く職場は、周辺視野が広く、死角が少ないためだ。たとえば、意思決定権を持つ役職に就く女性が増えた企業は、女性顧客の直面している問題を解決する能力が向上する。

 マクロ経済レベルで見た影響も無視できない。米国のGDPは、労働力のうち障害者の割合が1%増えるだけで最大250億ドル増加する見込みだという。GDPが増加すれば、自社の顧客も増えることだろう。

(6)イノベーション創出の能力を高める

 インクルージョンを高めることで、新しい考え方が内容本位で評価されやすい環境をつくり出せる。そのような職場では、常識に囚われない考えが生まれやすい。インクルーシブな組織ほど、アイデアの中身に、つまり「何」に注目する傾向がある。思いがけない人物が提案したアイデアであっても、「誰か」を理由に、そのアイデアに対する評価が下がったり、そのアイデアが葬り去られたりすることは比較的少ないのだ。

 真のインクルージョンが実現した場合、イノベーションの能力はどのくらい高まるのか。その度合いは、推計でざっと20%から70%程度とされている。この値は、その組織がもともとどの程度のイノベーション能力を持っていたかによって変わる。