(4)献身

 人間は、高い水準を目指し、深い献身とともに行動する時に成長する。ここで言う「献身」とは、ほかの誰かの成功のために、全身全霊で、見返りを求めずに努力することを意味する。しかし、私たちは時に、その献身を控えてしまう。そうした行動が高い水準を目指す妨げになるのではないかという誤った思い込みを抱いているためだ。

 一言でいうと、そのような心配は無用だ。だから、チームのメンバーには、どれくらい情熱を傾けてほしいかをはっきり伝えよう。

(5)幸福

 故トニー・シェイ──いまは安らかに眠っていることを願う──がオンライン靴店のザッポスを創業し、成功に導いたことによって明らかになったのは、職場で「ときめく」ことの威力だ。シェイは、従業員と顧客とサプライヤーの幸せを土台にザッポスのビジネスを築いたのである。

 しかし、現実では、私たちは職場で互いを不幸にしていることがあまりに多い。シェイの残した言葉をより大切にしよう。

(6)不快

 この感情は、少なくとも時折、誰もが向き合い方を誤ってしまうものの一つだ。不快感を抱くと、その時行っている活動をやめるべきだというサインだと勘違いしてしまうのである。このような反応を示すのは、人間には、不快なものを避ける性質が本能的に備わっているためだ。しかし、新しいことを学習したり、解決策がわかっていない問題に取り組んだりするなど、価値あることの多くは、快適ゾーンの外で起きる。

 以前、IBMの会長、社長、CEOを務めたジニ・ロメッティはこう述べている──「成長と快適さは両立しない」と。

(7)怒り

 驚くかもしれないが、筆者らは怒りの感情にも存在意義があると考えている。何より、怒りを抑え込もうとすると、やがて自分に害が及ぶからだ。怒りは、さまざまな意味で扱いが難しい感情といえる。すべての人が等しく怒りを表現できる状況にあるわけではないのだ。たとえば、黒人のプロフェッショナルが仕事の場で怒りを表現した場合、ほかの属性の人たちに比べて、その行為の代償を払わされるケースが多い。

 怒りはしばしば、2次的な感情という性格を持つ。つまり、失望や悲しみなど、ほかの感情が背後に潜んでいる場合が多いのだ。筆者らは、怒りの感情を乗り切ろうとしている人たちをコーチングする際、この点を出発点にすることが多い。怒りの根底に、何が潜んでいるのか。その感情から何を学べるのか。こうしたことをまず検討するのである。

(8)喜び

 喜びは、プロバスケットボールのNBAの伝説的なコーチであるスティーブ・カーがチームの4つの中核的価値の一つと位置づけているものだ(ほかの3つの価値は、マインドフルネス、思いやり、競争)。この価値を重んじているおかげで、カー率いるゴールデンステート・ウォリアーズは目を見張る成功を手にしていると、カーは述べている。

喜びの感情の重要性を指摘すると、驚く人が多い。しかし、ウォリアーズの選手たちが楽しそうにバスケットボールコートを支配している様子を見れば、考えが変わるかもしれない。なお、喜びの感情もまた、誰もが等しく味わえるものではない。実際、喜びがいまだに「抵抗の行為」であり続けている人たちもいることは忘れてはならない(注)

(9)仲間意識

 ここで筆者らが表現しようとしていることを的確に言い表せる完璧な言葉は見当たらない。そこで、端的にこう述べておこう。生きていれば、誰でも挫折を経験することがある。その時、再び立ち上がるためには、ほかの人たちの力が不可欠だ。それは、大きな助けの場合もあれば、小さな助けの場合もあるだろう。

 いずれにせよ、そうした力を貸してくれる人たちと巡り合えるのが、仕事の場であることは多い。

(10)慈愛

 これは非常に重要な要素だと、筆者らは考えている。いま私たちが生きて、働いている世界では、この要素があまりにも不足しているように思える。筆者らの経験から言うと、慈愛はまず自分の内面から始まる。自分自身が完璧ではないという事実を受け入れて初めて、ほかの人たちにも慈愛の精神に基づく行動を取れるようになる。

 慈愛は、状況によって、親切さや、共感、寛大さなどの形を取ることもある。それは、難しい会話をするか、そのままにしておくかを決断することといえるかもしれない。どのような形を取るにせよ、慈愛のある態度を取るためには、その姿勢が他者に対して説得力を持つように、まずは自分自身に対して実践しなくてはならないのだ。

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注:「喜びは抵抗の行為である」という息をのむような言葉が初めて用いられたのは、トイ・デリコットの美しい詩「ザ・テリー・サイクル」の一節だ。それは、ブラック・フェミニズムを呼び掛ける革命的な言葉の一部だった。

本稿は、2人の近著Move Fast and Fix Thingsからの抜粋に編集を加えたものである。


"10 Emotions That Are Undervalued in the Workplace," HBR.org, October 17, 2023.