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表面的な問題は真の障壁ではない
誤ったインセンティブ設計。十分でないトレーニングへの投資。相反する優先事項。幹部チーム内の「腐ったリンゴ」(腐敗した人物)たち。これらはいずれも、「あなたの会社の変革への取り組みを妨げているものは何か」という問いに対する典型的な回答だ。
しかし、筆者らに言わせれば、こうした要因はすべて上っ面のものにすぎない。変革の妨げになっている障壁の根本原因を見つけるには、リーダーたちが自社の潜在意識に探りを入れ、それを表面に引っ張り出してきて診断し、最終的には、隠れている(多くの場合はごく些細な)障壁を解消する必要がある。本稿では、筆者らがあるクライアント企業に対して実行した取り組みと、そこから学んだことを紹介する。
組織で本当に起きていることを明らかにする方法
人類学者のように行動する
その製造業のクライアント企業は、成功が約束されているように見えた。同社は、未来の成長に向けて野心的な目標を立て、新しい成長をもたらす取り組みに大々的に投資して、自社の組織文化を変革するために多くの努力を費やしてきたのだ。しかし、こうしたことすべてを実行してきたにもかかわらず、足踏み状態に陥っているようだった。なぜ前進が減速しているか尋ねると、この会社の幹部たちは、前述したようなお決まりの要素を列挙した。
見えない障壁をあぶり出すためには、複雑な症状を示している患者を診断する医師のように振る舞う必要がある。そして、組織における診断のプロセスは、ある一つの前提から出発すべきだ。その前提とは、あらゆることが診断のためのデータであるという考え方である。その職場の人々は、どのような準備をして会議に臨んでいるのか。また、会議では、誰がどのタイミングで発言しているのか。どのような問いが発せられているのか。いつ、どのようなことが宣言されているのか。誰が発言力を持っているのか。組織で実践されている日々の活動は、組織の慣習と価値観を浮き彫りにするデータの宝庫なのだ。
そのようなデータは、たいてい表面には見えていない。見落とされていたり、無視されていたりするためだ。ハーバード・ケネディスクール上級講師のロナルド A. ハイフェッツが適応型リーダーシップに関して述べた言葉を借りれば、そうしたデータを掘り起こすには、時にダンスフロアからバルコニーへ移動し、人類学者さながらに、システムの中で起きていることを明らかにする必要がある。
本稿の筆者2人は、前出のクライアント企業で、ある重要なイノベーションの取り組みをめぐる会議の様子を観察した。そのイノベーションを担当するチームの面々は、会議が始まる15分ほど前に会議室に集まり、上層部がどこに着席するかという予想に基づいて、メンバーの誰がどこに座るべきかを相談して決めた。そして、その後は軽い雑談が始まった。
やがて、最高幹部の最初の一人が入室すると、瞬時にして雰囲気が変わった。チームのメンバーは、大人しく着席して会議の始まりを待った。残りの最高幹部たちが全員揃うと、まずチームのリーダーが活動内容を説明した。そして、幹部たちが代わるがわる質問した。その質問は、会社の組織図上の地位に基づいて、あらかじめ決められている順番どおりに行われているかのように見えた。最初にCEO、それに続いてCFO、といった具合だ。
その会議は台本に沿ったお芝居のようで、即興でのやり取りや真の議論の余地はほとんどなかったように思えた。しかし重要なのは、会議の出席者が会議前と会議後に記した日誌によると、見かけ上は筋書き通りにすべてが進んでいるようだったにもかかわらず、そのお芝居の「俳優」たちの感じ方は異なっていたたことだ。
ある出席者は、「非常に前向きで、活気に満ちていた」と記した。別の出席者は、「悪くはなかったが、不明瞭だった」と記し、別のもう一人の出席者は、「いら立たしかった」と記した。
この目に見える体験から導き出せた示唆、すなわちこの会社の会議が形式的で、しかも不満足なものになっているという示唆は、同社が自社の状況を点検し、自社に根を張っている無意識の行動パターンをあぶり出し、それらを断ち切るためのさまざまな方法を検討する道を開いた。
現状を変える方法としては、会議の準備方法を変えること、出席者の発言順を無作為に決めること、会議の締めくくりに振り返りの時間を設けること、創造的な摩擦(イノベーションと成長を後押しするうえでは極めて重要な要素だ)を生み出すための「儀式」を実践することなどが挙がった。