できること、できないことを決める
コストについて把握したら、何が実行可能かについて判断する。ここでは、プロジェクトチームのキーパーソンたちから意見を聞くのが有効だ。安心して気持ちよく要望を承諾できるかもしれないし、要望に部分的に応えることが可能かもしれない。
要望者と同じ目標を達成するために、チームが何を実現できるかを創造的に熟考しよう。まったく新しい機能を導入しなくても、すでにスコープ内にあるものを微調整すれば、同じ機能性をユーザーに提供できるかもしれない。きっぱりと断るよりも、次のような説明のほうが言いやすいのではないだろうか。「ご要望をその通りには実行できないのですが、あなたが求めている結果の実現につながる別の方法ならば、我々には可能です」
メッセージを伝える
決定を明確に説明し、プロジェクトにとっての最善の利益に焦点を当てる。断る際には、論理的根拠を説明すると効果的だ。『クルーシャル・カンバセーション』の著者ジョセフ・グレニーは次のように述べている。「あなたの理論を伝えよう。事実関係を伝えよう。決定の根拠を伝えよう。そして何より、あなたの結論を動機づけている価値観を伝えよう。そうしなければ、あなたが残した空白を、ほかの誰かがみずからの不安と偏見で埋めるだろう」
もし承諾した場合は、延長されるスケジュール、膨れ上がるコスト、転用されるリソースといった観点からプロジェクトがどうなるのかを説明すると効果的だ。影響の全体像を、明確かつ公正に(誇張しすぎずに)示す必要がある。
可能であれば、代わりに何ができるかを提示しよう。要望を全面的に却下するよりも、プロジェクトの目的と制約に見合った代替案を提示するとよい。そうすることで、協力し妥協点を見出したいという意思を示すことになる。また、将来的な段階での変更を優先するよう勧めたり、プロジェクトのスコープを超えずに新機能を追加できるトレードオフを提案したりすることもできる。
場合によってはステークホルダーを教育する必要があることを、念頭に置いておこう。変更要請の多くは、プロジェクトの本来の目的や制約に関する理解の欠如から生じる。要望者の理解を助けることは、プロジェクトマネジャーの役割である。
当然だが、要望が来る前から定期的にコミュニケーションと近況報告を行うことで、関係者にスコープクリープの影響を理解させやすくなり、不合理な要望を未然に防ぐことができる。
断り方に注意を払う
対立的な姿勢や素っ気ない態度で断る必要はない。境界線を維持しつつ、敬意を払うというバランスを取ることが大事だ。コミュニケーションの専門家、ホリー・ウィークスの言う「中立的なノー」を使うとよい。彼女はこれを次のように説明する。「『中立的なノー』は、安定しており、よどみなく、明瞭だ。当てはまらない特徴としては主に、辛辣、けんか腰、申し訳なさそう、渋々、過度に友好的、などがある」
ウィークスはこれを、試合でどちらのチームとも利害関係がなく、ありのままに判定する審判に例える。冷静で安定した口調を保つよう努め、そわそわした態度は気まずさが伝わるので避けよう。
メールやスラックよりも、対面かビデオ通話で伝えることができれば望ましい。そのほうが共感を伝えやすく、ボディランゲージに反応しやすいからだ。加えて、質問や抵抗(後ほど詳述)に対し、長々としたやっかいなやり取りをすることなくリアルタイムで対応できる。
会話を文書で記録する
プロジェクトに関するあらゆる決定事項と同じように、話し合いの内容も必ず文書化しておこう。ステークホルダーが再びやってきて、同じ要望や似た要望を出してくるのは珍しくない。会話の記録と決定の根拠を所持しておくことは、境界線を再度引いて期待を管理するうえで役立つ。
文書化はまた、話し合いに直接参加はしなかったが結果を知る必要があるプロジェクト関係者に対し、透明性を提供することにもなる。
もしも抵抗に遭ったら
ステークホルダーは、あなたの下した決定に満足しない可能性がある。その場合、ジャーナリストでありコンサルタントのルチカ・トゥルシャンによる断り方に関する助言を取り入れるとよいだろう。彼女は「強調か、再交渉」のいずれかを勧める。
強調する際には、たとえば次のような言い方ができる。「この件を提起していただき、あらためて感謝します。申し上げたように、プロジェクトの予算への影響が理由で、ご要望に応じることができないのです」
あるいは、このような再交渉をしてもよい。「もしこれが必ず必要なものならば、代わりに何を棚上げできるかについて、もう一度話し合いましょう。そうすればチームは予算を犠牲にすることなく、この変更を優先できます」
同じ人物が変更の要望を何度も持ちかけてくる場合は、プロジェクトのスポンサーや、ほかの主要意思決定者(要望者がプロジェクトのスポンサーである場合)を巻き込むとよいだろう。彼らはたいてい、議論の仲裁に一役買うことができ、スコープの変更がプロジェクトの戦略目標に実際に合致するかを確認して最終決定を下す手助けをしてくれる。
あなたの最終的な目標は、プロジェクトを成功させることだ。そのためには、途中で「ノー」と言わざるをえないこともあるだろう。ステークホルダーのニーズへの対応と、プロジェクトの整合性の維持との間にバランスを見出すことがカギである。
"How Project Managers Can Say No - While Preserving Relationships," HBR.org, October 24, 2023.