複雑性

・学際的な要求。AIとプロジェクトマネジメントを融合させるには、さまざまな領域の専門家集団が必要となる。機械学習の専門家、データサイエンティスト、環境科学者、政策コンプライアンス担当者など、さまざまな分野の専門家が集まれば、複雑性は増大する。

・変化する規制環境。サステナビリティ目標は固定的なものではなく、地域や州の法律や国際的な法律、文化、伝統の影響を受けて進化する。

・データ過多。AIはデータ上で動作し、エネルギー使用から廃棄物生産に至るまで、多次元のデータセットを管理、解釈することで複雑性が増す。

コスト

・学際的な要件による直接的コスト。上記のような学際的な人材には、コストがかかる。複数の分野の専門家が集まれば、その分費用がかさむ。

・ライフサイクルコスト。AIモデルは生き物であり、継続的な育成が必要だ。定期的な更新、新しいデータや条件に適応するための調整、新しい基準を組み込むための完全なオーバーホールなどである。ISO14001やLEEDのようなサステナビリティ認証の取得と維持には、初期評価のコストだけでなく、定期的な監査が必要となり、プロジェクトの経済的負担が増える。

二酸化炭素

・学際的な要件が炭素に与える影響。ステークホルダーの会議のための移動、ハードウェアの輸送、プロジェクトチームが働くオフィススペースで消費されるエネルギーも考慮しなければならない。

・AI関連の二酸化炭素排出。機械学習アルゴリズムは多大なエネルギーを必要とし、膨大な計算能力がプロジェクトの環境への影響を増大させる。これらの複雑なアルゴリズムに必要なハードウェアのライフサイクル(製造から廃棄まで)にも環境コストがかかる。GPUやTPUといった特殊なハードウェアは、アルゴリズム処理を高速化する一方で、プロジェクト全体の二酸化炭素排出量を増加させる。マサチューセッツ大学アマースト校の研究者が行った調査によると、たった一つのAIモデルのトレーニングによる排出量は、二酸化炭素に換算すると約280トンに上り、平均的な米国産自動車の生涯排出量の約5倍に相当する。

グリーンアルゴリズム

 そこでグリーンアルゴリズムの出番だ。このアルゴリズムは、予測的メンテナンスを可能にする機械学習から、ステークホルダーの感情分析のための自然言語処理、さらには動的リソース割り当てのための強化学習まで、さまざまなAI手法とシームレスに統合される。こうしてでき上がるのが、スマートに実行できるうえ、プロジェクトへの影響も持続可能なAIツールである。グリーンアルゴリズムは、複雑性とコスト、および二酸化炭素の課題に対処するのに役立つ。

・複雑性の管理。最新のプロジェクトマネジメントのツールや方法は、複雑性を緩和し、統合を促進することを目的としている。ノーションやフォーキャストなど多くのプラットフォームは、複雑なアルゴリズムやデータセットの管理を簡素化し、よりよい意思決定のための実用的な知見に変える機能を提供している。プロジェクトマネジャーがグリーンアルゴリズムを効果的に実施するために必要なスキルを習得できるよう、専門的なトレーニングやコンサルティングサービスも提供されている。

・コストの管理。AIソリューションの導入には、初期費用と専門スキルが必要であり、これが導入の障壁となることがある。しかし、これらの技術を単なる支出ではなく、長期的な見返りのある投資としてとらえることが重要だ。効率的なデータセンターによるエネルギーの節約は、運用コストの大幅な削減とコンプライアンスコストの削減につながる。また、リスク低減やブランド価値の向上といった無形の利益も、グリーンアルゴリズムの採用によって得られる可能性がある。

・二酸化炭素の管理。グリーンアルゴリズムを導入することで、自動化されたソリューションに伴う実証済みの運用効率が得られ、資源利用の最適化、廃棄物の削減、サステナビリティに関する規制への準拠を通じて、大幅な節約を実現することができる。平均的なデータセンターからより効率的なデータセンターに切り替えることで、二酸化炭素排出量を30%も削減することができ、さらなる改善も見込まれている。

 GEリサーチがその好例だ。同社はGEリニューアブル・エナジーと共同で、風力タービンのロジスティックスを最適化するために設計された最先端の機械学習ツールを開発し、今後10年間に業界全体で数十億ドルの節約を実現する可能性がある。このアルゴリズムソリューションは、輸送や設置から継続的なメンテナンスに至るまで、風力発電所の運営のさまざまな側面を最適化することに焦点を当てており、コスト、複雑性、二酸化炭素排出量のすべてがコントロールされ、低減した。

 こうした成功例が一般的になりつつあるいま、世界中のプロジェクトマネジャーへのメッセージは明確だ。いまこそグリーンアルゴリズムを採用する方法を学ぶ時なのである。