プロジェクトを成功させたいなら、目先の戦術に惑わされるな
Yaroslav Danylchenko/Stocksy
サマリー:プロジェクトを推進するチームの多くは、最終目標よりも、その過程にある個別の成果に着目する傾向がある。これでは、スケジュールと投資の円滑な決定が妨げられかねない。この問題を解消するには、リーダーがチーム... もっと見るのマインドセットを「何をするか」ではなく、その背景にある「なぜするか」に転換させる必要がある。本稿では、チームが望ましい最終成果に到達するための2つの戦略を紹介する。 閉じる

最終成果ではなく、個別の成果に着目する状況を脱する

 多くの企業は、プロジェクトや活動のスコープ(範囲)を定めるために莫大な時間を費やしている。この作業は、リソースの分配や予算決定、スケジュールの設定に欠かせない。

 しかし、「スコープ」というのは危険な言葉だ。この言葉で表現されるのは、個別の成果物の場合もあれば、さらに広い意味での成果を指す場合もある。そして、チームは個別の成果物にばかり目を向ける傾向がある。達成したものにチェックマークを入れていくことにより、素早く前進しているという感覚を味わえるからだ。

 問題は、このように最終目標よりも目先の戦術に着目すると、際限なく活動を拡大させる事態を招きかねないことである。活動が広がり続ければ、スケジュールと投資の円滑な決定が妨げられる。

 筆者は、これまで自社が関わってきたクライアント企業(筆者の会社では、企業が競争環境の中で差別化を成し遂げるための戦略を設計する手助けをしている)のほぼすべてで、このパターンを目の当たりにしてきた。そのような企業では、幹部とメンバーが莫大な時間とエネルギーを費やしてさまざまなプロジェクトの戦術を議論する一方で、どのような成果を目指すかを無視し続けたり、目指すべき成果を現実のものにすることに注力しなかったり、ひどい場合はそのような状態になっていることについて考えなかったりする。こうしたしばしば見られる問題に有効に対処するには、どうすればよいのか。

 リーダーとしては、チームのメンバーが重要な成果と重要な問題に集中するようにしたい。そのためには、まず「スコープ」がじわじわと拡大していく場合の一般的なパターンを知り、そのような流れを素早く断ち切ることが必要となる。

 具体的には、チーム全体のマインドセットを、「何」を築こうとしているかよりも、「なぜ」それを築こうとしているのかを重んじるように転換させなくてはならない。プロジェクトで目指す成果を明確に定めることが狙いだ。そうすることにより、チームの関心が課題に集中することを期待できる。本稿では、あなたの組織でこうしたマインドセットの変化を起こすためにカギを握る2つの戦略を紹介する。

「スコープ」がじわじわと拡大する一般的なパターンを知る

 プロジェクトの「スコープ」がじわじわと拡大していくと聞くと、プロジェクトの要求事項や特徴が変化する状況を思い浮かべる人が多いかもしれない。このような現象が生じる原因は、成果物の「スコープ」が明確に定められていないことではない。原因は、最終成果の定義にほとんど関心が払われていないことである場合が多い。

 顧客のどのような問題を解決することを目指し、成功の度合いをどのような基準で判断するのかが明確になっていないケースがあまりに多いのだ。最終成果が曖昧なままでは、プロジェクトの「スコープ」が拡大していくのはまったく不思議でない。

 たとえば、あるチームが新しいコーヒーメーカーの開発と市場投入という任務を課されているとしよう。コーヒーメーカーが果たすべき基本的な機能ははっきりしているが、コーヒーメーカーに搭載できる可能性のある機能はほぼ無限にある。アラーム機能を持たせるべきか。ステンレススチールのボディにすべきか。セルフクリーニングモードを搭載すべきか。こうした数々の選択肢を評価し、有効な議論を行おうと思えば、その製品が解決することを目指す最も大きな問題を明確に理解しておく必要がある。

 「スコープ」には一般的に、プロジェクトを通じて生み出される具体的な成果物すべてが含まれる。それは、文書だったり、ソフトウェアだったり、デザインだったり、実験結果だったりする。たとえば、新しいコーヒーメーカーをつくるのであれば、「スコープ」内の成果物には、プロダクトの具体的な仕様の設計、原材料調達のためのプランの策定、製品安全性規格の認証取得などが含まれる。

 それに対し、プロジェクトの最終成果は、より抽象的な性格が強く、解釈が分かれる余地がある。たとえば、コーヒーメーカーでいえば、最終的な成果物がコーヒーメーカーという機械そのものであることは明らかだが、消費者にとって理想的な最終成果を明確に定義することは難しい。それは、何をもって「理想的」と考えるかが人それぞれで異なるためだ。