そのように考え方がまちまちなために、チームはたえず、どのような機能を搭載すべきかをめぐって延々と議論し続けることになる。予算もしくはスケジュールの限界に達しない限り、こうしたサイクルには終止符が打たれない。このようなことが起きるのは、そのチームが「何」を築こうとしているか、あるいは築くことを目指しているかの背後にある「なぜ」が明らかでないためだ。

 個別の成果物にしか関心を払わなければ、商品開発は機能や特徴を量産するプロセスになり、チームの活動が本来の最終成果と乖離しかねない。そのようなチームは、ひたすら「スコープ」の達成に向けて突き進むが、機能や特徴を増やしても、より大きな最終成果の達成にはつながらない場合も多いのだ。

 では、チームが望ましい最終成果に到達するために、リーダーはどうすればよいのか。そのための重要な行動をいくつか紹介しよう。

戦略1:問題に基づく最終成果を明確に定義する

 最終成果を基準にプロジェクトを推進することは、問題解決に基づいて成功の度合いを判断することを意味する。言い換えれば、どれくらい有効に問題を解決できたかを基準に、進捗を評価するのだ。

 最終成果とは、個々のプロジェクトの成果物や機能のことではなく、顧客が抱えている問題(解決されていなかったり、まだ十分に解決されていなかったりする問題)を解決することと考えるべきである。したがって、最終成果を定義するためには、顧客が求めていることについての先入観を捨てて、顧客が実際にどのような困りごとに直面していて、それを解消するために具体的に何が必要とされるかに関心を移さなくてはならない。

 たとえば、「ステンレススチールのボディ」などの成果物から出発するのではなく、顧客が解決したい主要な問題を掘り下げるべきだ。顧客が強い不満を感じているのが、コーヒーメーカーをクリーニングする手間だとすれば、ステンレススチールを用いた場合には汚れが目立ちやすく、問題を悪化させてしまう。

 このケースにおける問題に基づく最終成果とは、「コーヒーメーカーをクリーニングする手間をなくす」ことだ。それがわかれば、問題を解決するためのよりよい方法を模索することが可能になる。この場合、問題の解決策の中には、「セルフクリーニングモード」を搭載することや、汚れにくい素材を使用することなどが含まれるだろう。

 目指すべき最終成果を前面に押し出すことには、共通の目的と目標に向けてチームの足並みを揃える効果もある。どのようなことを達成する必要があるかを明確にすることにより、チームのメンバーにモチベーションを持たせ、問題解決に向けて動くようエンパワーできる。目指すべき最終成果がわかっていなければ、個々の戦術や成果物の必要性の有無を判断しようとしても推測の域を出ない。一言でいうと、問題に基づく最終成果が定められて初めて、機能や成果物に関して有益な「スコープ」が定められるのだ。

 目指すべき最終成果を定める際は、それが広すぎたり、曖昧すぎたりしないように気をつける必要がある。たとえば、「商品の利幅を最大化する」ことを最終成果として目指すと決めるだけでは、具体的にどれだけの利幅を目指すのかがはっきりしない。この落とし穴に陥らないためには、柔軟性のある目標を設定すればよい。たとえば、利幅の目標にある程度の幅を持たせれば、クリエイティブな解釈の余地が生まれる。

戦略2:ものの提供ではなく、最終成果の達成に集中する

 リーダーは、チームメンバーの仕事に責任を負い、チームとして成果を挙げることにインセンティブを与えられている。その結果、リーダーは細部に深く首を突っ込み、仕事の「スコープ」に過度に関心を抱き、時には生み出すべき個々の成果物を言い渡すことすらする。しかし、こうしたことを行うと、メンバーは、ものを提供することが最終成果だと履き違えてしまう。

 この失敗を避けるためには、解決すべき問題に関心を向けるようにすればよい。そうすることで、リーダーは自分の時間のかなりの部分を、細かいことに関わり合うのではなく、チームのメンバーと意見を交わし、問題ベースの最終成果を定めることに費やせるようになる。

 リーダーが新しいアイデアを思いついたとか、組織が新しいものをつくり出す能力を持っているというだけでは、それを通じて特定の顧客の具体的なニーズに対処できるとは限らない。「まず、つくってみよう。そうすれば、客はやってくる」という発想は、競争が極めて激しく、顧客が気まぐれで目が肥えている場合は、途方もなくリスクが大きい。

 最後にもう一つ。チームの活動が散漫にならないようにするためには、複数の目標が矛盾する状況を解消することが重要だ。具体的には、目指すべき最終成果の優先順位を明確にすることも有効かもしれない。

 たとえば、チームのメンバーは、「商品の利幅を最大化する」ことと「コーヒーメーカーをクリーニングせずに済むようにする」ことのどちらを優先すべきなのか判断に迷う場合もあるだろう。このような事態を避けるために、一つの問題ベースの最終成果を選び、それをプロジェクトの道標に位置づけ、その最終成果に関してはいっさい妥協しないとチーム内で合意すればよい。一方、それ以外の最終成果に関しては、獲得したい顧客と会社にとっての重要度に応じて、チームのメンバーが優先順位をランク付けすればよいだろう。

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 どのような成果物を生み出すかを考えるより、問題に基づく最終成果に関心を集中させれば、チームとして、顧客の真のニーズに合致した活動ができるようになる。そして、チームのメンバーが単に課題を完了させるだけでなく、自分たちの活動が最終消費者にどのように現実の価値をもたらせるかを考えるよう促せる。

 活動の「スコープ」を、個別の課題(=成果物)ではなく、望ましいソリューション(=最終成果)の観点から定義すれば、成功に到達するための複数の道筋が見えてくる。


"Project Managers, Focus on Outcomes - Not Deliverables," HBR.org, November 01, 2023.