話す時はチャートの仕組みの説明はしない

 プレゼンで聴衆の関心を失う最も簡単な方法は、スライドの箇条書きを一言一句読み上げることだ。同様に、提示したチャートの構造を説明すると聴衆の関心は離れてしまう。下記の地図を次の原稿を読みながら発表したらどうだろう。

「これは省ごとに分けた中国の地図です。地図の上が北で、各省は薄い黄色の境界線で区分けされ、省の名前も書かれています。近隣国はグレー、東シナ海と南シナ海は薄いグレーで示されています。距離は左上の記号で測ります」

 見てわかる仕組みを説明するのは、相手を見下すことにもなる。データビズでも同じ懸念が生じうる。以下は、よくあるチャートのプレゼンとその原稿だ。

 「これは、旅の快適性と航空券の料金の関係を表したものです。快適性はX軸の0~10、航空券の料金はY軸に示されています。ご覧のように、青いドットで示したエコノミークラスの航空券は料金にあまり差がありませんが、快適性は差があります。ビジネスクラスでは、快適性と料金との間にもう少し相関関係があるように見えますが、それは最も高い料金のみで、その場合でもそれほど大きな影響はありません」 

 このプレゼンターが話していることは、我々がすでに見ているものだ。「ご覧のように」とさえ言っていて、明白なものに言及して時間を無駄にしている。人々がわかっているものについて説明する意味はない。

 軸や色が何を示しているかを説明する必要はない。ラベルが付いている。話をする時は「アイデア」を議論すべきで、アイデアを示すものについてではない。書き直した原稿がこれだ。

(5つ数えた後で)「飛行機の旅はエコノミークラスでもビジネスクラスでも、最も高額な料金を払わない限り、お金で快適さは買えないようです。ビジネスクラスに5500ドル払おうが、エコノミークラスに2200ドル払おうが、ほとんどが快適さは平均的、中程度です。これが示唆するのは、従業員の旅を快適にするためにコストを費やす価値があるのは、最も高額なビジネスクラスの航空券だけということです。快適さを決めるのは料金ではないことがわかったので、ベストなコストパフォーマンスで生産的な出張になるよう、快適さを決めるのは何かを探るべきです」

 ここでは軸や色、ドットの集合の仕方などの話は出てこない。プレゼンターが話すのはすべて、アイデア(お金で快適さは買えない)、アイデアの分析(ビジネスクラスの航空券のほとんどは料金に見合う価値がない)、議論の促進(料金が快適さに影響しないなら何が影響するのか)、アイデアを議論することの重要性の確認(妥当な料金で従業員の満足度を高めることができる)だ。

 データやチャートの構造ではなくアイデアを説明することで、自然と人中心の言葉になっていることにも注目してほしい。プレゼンターは料金と快適性の比較ではなく、従業員の快適さと有意義な出張について語っていて、それが大事な点だ。

 プレゼンの第一人者であるナンシー・デュアルテは私にこう言った。「チャートを見せていると伝えてはいけない。人間の行動の結果を見せている、線を上昇あるいは下降させる人々の行動を見せていることを伝えなくてはならない。『第3四半期の決算はこちらです』と言うのではなく、『目標を達成できなかったのはここです』と言うべきだ」

 プレゼンでチャートの構造を読み上げるのは、たいてい聴衆に理解してもらう自信のなさの表れである。情報の強調や差別化が足りないなど、重要なアイデアを十分に強調できていない可能性がある。チャートを読み上げたくなる衝動を抑え、黙って5秒間数える。そして聴衆から上がった質問や意見でチャートの有効性がわかるだろう。人々が軸やラベル、そして何を見るべきかを尋ねてくるようなら、そのビジュアライゼーションは改善が必要だ。

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