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心に届かせる「ストーリーテリング」
ふざけるのが好きなあなたの上司が会議室に入ってきて、よく知られたこの曲を歌い出す。「ABCDEFG~、HIJK」。ここでストップし、黙ってしまった。その場にいた多くの人がストレスを感じるだろう。メロディーを最後まで終わらせなければならないように感じ、心を捉われてしまう。何も手につかない。とうとう誰かが「LMNOP」と続けるか、残りすべて歌い切るだろう。
チャートにもメロディー(線の形やドットの散らばり方)があると考えると、同じように聴衆の心を捉えることができる。ビジュアルインフォメーションをすべて明らかにしない限り、メロディーは完結しない。
その最も簡単な方法は、先の上司がアルファベットの歌でしたように、本来止まるべき地点の前で、いったん止まって間を置くことだ。「これは前四半期の顧客からの評価です。そして今期の評価は(間を置く)……」。短く、予期せぬ沈黙は期待感を生み、人々は落書きから顔を上げたり、自分のデバイスの画面から目を離したりして、ビジュアルに集中し、結論を待つ。
このテクニックは相互作用を生む。聴衆はメロディーがどう完結するのか考えずにはいられず、空所を埋めようとする。それを促そう。収益のチャートを3パターン示し、答えを明らかにする前にどれが現実を示しているか考えてもらってもいい。全体の収益に占める製品の内訳を示す棒グラフで、ラベルを隠して各棒がどの製品か当ててもらうこともできる。カギとなる情報を伏せて発表したのが下記のスロープグラフで、以下はその原稿だ。
(5つ数える)「女性の学位取得者が40%に満たない大学の専攻は含まれていません。このチャートは大きな進歩を示しています。しかし、コンピュータサイエンスと工学はまだ表示していません」(間を置く)
プレゼンターはさらなる情報を見せることを示唆しており、聴衆はその2つの専攻がどこに位置するのかを知りたくなる。多くの人はすでに推測している(あなたもそうだろう)。プレゼンターは「どこに位置すると思いますか」と言って推測を促す。そして、間を置く時間が長くなるほど人々は答えを求め、メロディーが先に進む前にそれを完結させたくなる。
ストレスを生み出す方法は他にもある。時間と距離を使うと、広さや値の大きさを伝えやすい。
シンプルで効果的な例がdistancetomars.comというサイトで、地球の直径を100ピクセルと仮定し、星が飛び交う宇宙空間を地球から火星まで「旅する」アニメーションのビジュアライゼーションだ。地球を離れて数秒後に3000ピクセル離れた月に到着する。そして再び出発(光の速さの3倍で移動)。10秒ほどすると、いつ火星に「到着」するかわからないためストレスが高まる。さらに20秒、30秒が過ぎる。時間がたつにつれ先が読めない不透明感が募る。火星は極めて遠いという趣旨をすでに理解していても、そこに着きたいと思う。
最終的に火星に到着するまで1分ほどかかる。長いように感じるが、イライラして「もう言いたいことはわかったよ」とは思わせない程度の長さだ。これは、ストレスを生み出す際の2つの注意点のうちの1つで、ストレスを作ったらすぐにそれを解消しなければならない。
例えば、先ほどのコンピュータサイエンスと工学の学位取得者の女性の割合がまだわからないことにイライラしていないだろうか。あるいはもう忘れてしまったか。私がストレスの解消に時間をかけすぎて、もはや気が逸れてしまったかもしれない。今となっては効果は低いが、答えは以下の通りだ。
私が間合いをうまく使っていたら、もっと効果的な答えの明かし方になっていただろう。2つ目の注意点は、答えを明かすテクニックは伝えるアイデアが驚きに値するからこそ効果があるため、慎重に使うことだ。驚きのない典型的な四半期収益のチャートは、ストレスを生むのには適さない。あらゆるビジュアルで間を置き推測を促すのは、うんざりされるのが関の山だ。
ストレスを生む効果が最もあるのは、答えが印象的な場合だ。女性の学位の答えも予想外のものだ。あなたがコンピュータサイエンスの学位取得者が減っていると確信していたとしても、「ここまで」減っていると思っただろうか。「半減」していると予想しただろうか。