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パーパスの浸透で、従業員に共通の価値観を持たせる
自社のパーパスを広く喧伝し、利益の追求だけに留まらない基本的な行動指針を強調している企業は多い。そうした企業の中には、その言葉通り倫理的行動と社会的責任を重んじて行動している会社もあるが、その一方で言葉と行動が一致していない会社もある。この両者の違いはどこにあるのか。
筆者らは、ビジネス界における実務と、アカデミックな研究の両方に深く関わってきた大学教員だ。その立場から、企業が環境と社会への配慮をビジネス戦略に織り込むことに関して際立った成功を収めるための条件を研究してきた。そうした研究を通じて明らかになったのは、カギを握る要素が組織文化だということだった。
ここで組織文化が大きな意味を持つのは、従業員のマインドセットと行動を形づくる基礎的な前提認識と共通の価値観、そして規範を生むのが文化であるからだ。企業は、パーパス重視を言葉の上で標榜していたとしても、そのパーパスに沿った文化による下支えがなければ、従業員は日々の職務の中でその共通の価値観を実践に移す後押しが得られない。その点、筆者らの研究によれば、パーパスを文化にうまく取り込むために重要なのは以下の3つの戦略である。
すべての組織階層におけるすべてのリーダーがパーパスを実践する
パーパスドリブンの文化の下でリーダーの役割を務める人たちは、ある重要な責任を負っている。その責任とは、自社のパーパスと価値観を明確に伝達し、それを嘘偽りなく実践することである。
ここで言うリーダーとは、チームにおける調整や意思決定を行い、リソース配分に責任を持つ人物すべてのことだ。すべての組織階層のリーダーは、パーパスおよび価値観と業績を明確に結びつける一方で、より大きなミッションを追求するために短期的に犠牲を払わなくてはならない状況を受け入れ、パーパスドリブンの取り組みについて回る難題を乗り切る必要がある。そのために、リーダーは以下のことを実行すればよい。
パーパスと業績を結びつける
パーパスドリブンの組織が成功を収めるためには、そのパーパスが戦略およびオペレーションと真に合致していなくてはならない。そうした合致を生み出すために、企業はさまざまな手段を用いている。
動画配信大手ネットフリックスの「カルチャーデック」(組織文化をまとめた文書)は、「自由と責任」など、自社の中核的価値観を説明するだけに留まらず、その価値観に基づいて従業員評価を行うことを通じて、それらの価値観を事業活動に深く組み込んでいる。たとえば、「勤務時間やオフィスへの滞在時間の長さを基準に評価することはしない」と明記し、それよりも、ほかのメンバーのためにもたらしている価値の大きさを基準に評価を行うと述べている。また、同社の「カルチャーデック」では、リーダーと従業員に対して、「ネットフリックスの利害に最も沿う形で行動」し、長い目で見た影響を考えて行動するよう促している。
短期的な犠牲に光を当てる
ミッションを真に追求しようとすれば、しばしば難しい選択を行い、短期的な犠牲を受け入れなくてはならない。リーダーは、こうしたことを包み隠さずメンバーに伝える必要がある。短期的な犠牲を払うことにより、長い目で見れば持続可能な成功への道が開ける場合が多いと訴えよう。化粧品製造・小売大手のラッシュは、このアプローチの成功例といえる。同社は、多くの利益を期待できる中国市場を放棄してでも、動物実験反対の立場を妥協せずに守り続けている。
難しい意思決定を行う際は、パーパスを指針にする
パーパス中心の文化を築く過程では、しばしば障害にぶつかる。そこで、リーダーは、柔軟に行動し、困難に対処した過程を振り返り、必要であれば軌道修正しなくてはならない。
民泊仲介大手エアビーアンドビーが会社として掲げているパーパスは、「誰もがどこにでも所属できる世界を創造する」というものだ。ある時、パーパスの真価が問われることになった。エアビーアンドビーのプラットフォーム上に人種差別が存在しているのではないかという疑問が呈されたのである。
厳しい逆風と訴訟に直面し、エアビーアンドビーのリーダーたちは、「プロジェクト・ライトハウス」と名づけた取り組みを開始した。その活動を通じて、自社のプラットフォーム上での人種差別の実態を把握し、差別と戦うことを目指したのである。エアビーアンドビーは公民権団体と協働して、いつ、どのようにして差別が起きるのかを追跡調査するための指標を確立し、その一方で堅持すべきプライバシー基準も明確に定めた。
エアビーアンドビーは、自社のウェブサイトにこう記した──「すべての知見は、我が社のプラットフォーム上でより公正な体験を実現し、すべての人の居場所をつくるという不朽のミッションを達成すべく、新しい機能や方針を生み出すために用います」。このようにして、新しい取り組みと自社のパーパスを結びつけているのだ。
リーダーは一般論として、ほかのメンバーをパーパスに向かわせるだけでなく、そのパーパスを日々実践する責任も負っている。リーダーは、みずからの行動、意思決定、コミュニケーションを通じて組織全体にお手本を示し、毎日の現実のなかでパーパスの重要性を強調する役割があるのだ。