パーパスはチームメンバーにとって具体的で、意欲を掻き立てるものにする
会社がパーパスを実践し、そして利益を挙げることを可能にするのは、従業員たちだ。従業員がその役割を果たすためには、自分の仕事がどのように自社の大きなパーパスを強化し、どのように目に見える形でそのパーパスの実現に貢献できているかを理解できなくてはならない。したがって、パーパスドリブンの文化を組織に根づかせるためには、リーダーが大きな方向を設定する一方で、メンバーが自律的にパーパスの実現に向けた選択を行う余地を確保する必要がある。
筆者らは、こうした指示と自由の適切なバランスを取るために幹部が検討すべき4つの重要な行動を提案している。
パーパスを日常業務に転換する
従業員は、自分の日々の課題と責務が会社のパーパスとどのように合致しているかを理解する必要がある。ソフトウェア大手のアトラシアンは、それを実現させている典型例といえる。同社の「チーム・プレーブック」は、単なる行動指針のガイドブックではない。チームがよりよく協働するためのワークショップを開催する際に役立つリソースも集めているのだ。
この文書は、「オープンな企業文化、デタラメは無し」「心を込めてバランスを創る」など、アトラシアンの精神を具現化するものであり、一人ひとりの従業員が会社のパーパスおよびチームの目的の中でどのような役割を果たすべきかを目に見える形で示している。
チームメンバーの視点を取り入れる
パーパスと利益の複雑な相互作用について、チームのメンバーの洞察を積極的に引き出すことにより、その職場が包摂的な環境だという感覚をつくり出し、すべてのメンバーが大切にされていて、意思決定プロセスの欠かせない一部になっていると感じさせられる。
従業員をパーパスに関わらせている会社の一つが、ネットワーク機器大手のシスコシステムズだ。これまで信頼とイノベーション、社会貢献の文化を築いてきたシスコは、従業員がみずからの情熱を追求し、仲間と協働し、大切に思っている大義のために貢献するよう奨励している。
従業員を積極的に参加させ、サステナビリティやダイバーシティといった重要なテーマに関する議論を行い、それらの議論をチームで一緒に活動する際に生じる具体的な困りごとと結びつければ、企業は従業員の草の根レベルの知見を活用できる。特に、市場や顧客と直接向き合っている人たちの知見を生かしやすくなるだろう。
パーパスに沿った自律性と、意思決定に関する明確な指針および原則との間でバランスを取る
日常業務の中で、従業員が自社の中核的価値観に基づいて意思決定を行う権限を与えることにより、顧客重視の革新的なソリューションの創出が加速する可能性がある。オンラインでの靴・衣料品小売大手のザッポスは、「幸せを届ける」というパーパスを掲げていて、従業員がそれぞれの裁量内で意思決定を行う際に、パーパスに基づいた選択をするよう訓練している。そのために、会社で用意した台本や方針に従うことなく、傑出したサービスを顧客に確約する自由を認めている。
パーパスドリブンの文化は、意思決定者と従業員に、意思決定に当たっての明確な原則と指針を与えることができる。この点は、複雑な局面や手ごわい局面でとりわけ大きな意味を持つ。
たとえば、スターバックスでは、詳細にわたる指針と約束事が定められていて、それに準拠してDEI(多様性・公平性・包括性)関連の行動と方針が決められている。DEIは、スターバックスのパーパスの中核を成す要素だ。また、同社は行動規範の一環として、従業員がよりよい倫理的な意思決定を行うよう促すためのシンプルなツールも開発している。
実験を重ね、その過程で社内の人々がどのような例外的状況に対処したかに光を当てることにより、(従業員の自律的な行動が求められる反応と、ルール通りの行動が求められる反応の両方を通じて)パーパスドリブンの文化が繰り返し解釈し直されて、具体化されて、修正されるのだ。
建設的なフィードバックのメカニズムを提供する
成長を継続させ、自社のパーパスと合致した行動を取るために、チームのメンバーとリーダーは、みずからの意思決定が会社のパーパスとどのように結びついているかについてフィードバックを受ける必要がある。たとえば、音楽配信サービス大手のスポティファイは、「人間の創造性の可能性を解き放つ」ことをパーパスにしており、柔軟なフィードバックと支援を提供している。
スポティファイでは、創造性を発揮して問題を解決し、新しい商品を生み出すために、自社のメンバーが自律的かつ協力的に働く権限を与えている。一方、アーティストとリスナーが創造性を表現し、発見するために、プラットフォームを提供している。同社はこのように、柔軟なサービスを拡大できるシステムと自社のパーパスを結びつけることにより、イノベーションと卓越を尊ぶ文化をはぐくんでいる。そうした文化は、自社とユーザーの両方に恩恵をもたらすものといえる。
要するに、パーパスがチームやメンバーにとって抽象的な概念にならないようにすることが重要だ。一人ひとりが自分の日常業務を大きなパーパスの構成要素と考えることができれば、おのずとエンゲージメントとモチベーションが高まり、従業員と組織の価値観の一致も高まる。これらの要素はすべて、パーパスドリブンの文化を育む効果を持つ。
評価とインセンティブを通じて、パーパスを根づかせる
パーパスドリブンの文化を組織に定着させる土台となるのは、その文化に沿った振る舞いを評価し、奨励することだ。しかし、自社の中核的なパーパスを反映した行動を歓迎する一方で、不適切にインセンティブを与えないようにすることは容易でない。この点に関して、リーダーは以下の行動から出発するのがよい。
パーパスを追求することの代償をいとわない
目先の利益を手放してでもパーパスを優先することは、自社がパーパスの実現に向けて本腰を入れているという強力なメッセージとなる。アウトドア用品大手のパタゴニアは、それを実践している企業の典型例だ。同社は、過剰な消費を避けるよう顧客に呼び掛けることにより、サステナビリティ重視の考え方を打ち出すことに加えて、そのパーパスのためであれば目先の利益を失うこともいとわない姿勢を示している。こうした行動を通じて、同社は大きな称賛を得ながら、従業員のロイヤルティも高めている。
パーパスドリブンの行動がもたらす好影響を評価し、称賛する
自分たちがパーパスに沿って仕事をすることにより、どのような好ましい波及効果が生まれるのかを、従業員に理解させることが重要だ。顧客と地域コミュニティ、さらには社会全体に及ぶ効果をしっかり伝える必要がある。それをみごとにやってのけているのが、前出の化粧品製造・販売大手ラッシュだ。同社は、動画やイベントなど、複数のコミュニケーション・チャネルを通じて、環境保護から人権擁護に至るまで、さまざまな重要課題に及ぼしている好影響を強調している。
このようにパーパスに基づく行動の効果をわかりやすく示すことと並行して、従業員のサクセスストーリーに光を当てることも忘れてはならない。そうした取り組みを通じて、成し遂げたことが周知されるのだ。
また、従業員個人の価値観と会社の価値観をすり合わせることにより、自社のパーパスをステークホルダーのために現実化させた実例を示すことも重要だ。たとえば、顧客情報管理大手のセールスフォースが作成している「トレイルブレーザー・ストーリーズ」は、単に顧客による推薦の言葉を集めただけのものではない。それは、個人や組織のユーザーがどのようにセールスフォースのプロダクトとサービスを活用し、キャリアとビジネスを大きく様変わりさせ、さらには世界に好ましい影響を及ぼしたかを示す心揺さぶられる実例集になっている。その内容は、セールスフォースのパーパス──「よりよい未来を築くあらゆる規模の組織のパーパスに力を与える」──と完全に合致している。
自社のパーパスに沿った行動を称賛することにより、従業員に誇りを持たせ、職場にコラボレーションの精神を広げられる。そのような職場では、自分たちの仕事が顧客に好ましい影響を及ぼすのを目の当たりにすることによって、従業員が相互のフィードバックを通じて学習と試行錯誤を繰り返すことを可能にしている。
パーパスの要素をインセンティブ制度に組み込む
従業員の給与決定において、パーパスに関する指標も考慮することにより、総合的なパフォーマンス評価が可能になる。ビジネス上の成果と、自社の精神への合致の両方を反映した評価を行えるのだ。生活用品大手ユニリーバの給与決定と昇進に関する方針は、この点で際立っている。サステナビリティに関する指標を幹部の報酬決定に反映させているのだ。このアプローチは、サステナビリティを重視した行動の重要性を強調するだけでなく、従業員が自社のパーパスと共鳴する取り組みに積極的に参加するよう促す効果もある。
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株主中心主義全盛の今日のビジネス界でパーパスドリブンの組織を築くには、パーパスを中心に据える文化を計画的に、そして思慮深く取り入れなくてはならない。具体的には、自社のパーパスを明確に伝達すること、そして、リーダーがパーパスを積極的に体現することが必要とされる。また、パーパス志向の成果に光を当て、パーパスに基づく行動を強化するような報酬システムをつくることも重要だ。そしてここでは、象徴的な面での報酬と、金銭的な面での報酬の両方を対象にする必要がある。
パーパス重視のアプローチを推進しようと思えば、長期間の取り組みが必要とされる。その過程には、難しい問題がいくつも存在している。そのためには、継続的なコミットメントや適応力、レジリエンスが不可欠だ。
それでも、明確で嘘偽りのないパーパスを持つことは、市場での地位を強化し、ステークホルダーから強力で長期にわたる信頼を獲得し、有効なコラボレーションを実現し、戦略上のレジリエンスを育む後押しになる。これらはすべて、持続的に利益を上げることに役立ち、これはより高次の最終目標を達成するための強力な手立てになる。
最終的に、パーパスを重視して行動することがもたらす報酬は、具体的な社会的および環境的恩恵と、株主に対する長期的な価値となる。
"How Leaders Can Create a Purpose-Driven Culture," HBR.org, November 07, 2023.