
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
低賃金労働者の賃上げに影響を与える新たな要因
世界中で何百万人もの人々が、最低賃金または低賃金の仕事に従事している。たとえば、米国では成人労働力の44%、インドでは成人労働力の30%がこれに当てはまる。CEOやビジネスリーダーは、法的要件や人件費、従業員のパフォーマンス、道徳的原則など多くの要素を考慮して自社の最低賃金を決定する。そのため、最低賃金への取り組み方は企業やリーダーによって大きく異なる。
たとえば、米連邦政府が定める最低賃金は2009年以降、時給7.25ドルに据え置かれており、多くの雇用主がこの基準を採用している。米国では、最低賃金労働者のおよそ3分の1が貧困ラインの150%以下で生活している。
ただし、ニューヨーク市、ワシントンDC、サンフランシスコなど一部の都市や、アリゾナ州、コロラド州、メイン州など一部の州、そしてコストコやパタゴニアといった一部の大手企業の中には、低賃金労働者の賃金を引き上げた例もある。そうした企業は、従業員の定着率やウェルビーイングの向上という点でメリットがあったと報告している。とはいえ、そうした賃上げも多くの場合、現在のインフレ率の上昇ペースには追いついていない。
こうしてインフレが進行した結果、連邦最低賃金の価値は記録的な低水準に落ち込んでいる。現在、最低賃金で働く労働者の収入の価値は、2009年7月と比べて27.4%減少した。低賃金労働者の賃上げ問題は、政治家や企業の意思決定者、この問題で草の根運動を率いる従業員の間で熱い議論の的となっている。
過去の研究では、低所得者の賃上げと相関する制度的な要因として、労働者に対する潜在需要の低さ、団体交渉、州が支援する福祉プログラム、労働組合の存在などが挙げられてきた。加えて、心理面の要因も影響する。米国では、リベラルな政治信条を有し、プロテスタントの労働倫理を支持し、貧困を制度的な要因によるものだと考える人ほど、低賃金労働者の賃上げを支持する傾向が強い。
筆者らがインド経営大学院ムンバイ校のニラージュ・パンディと共同で行った最近の研究では、低賃金労働者の賃上げへの賛否が人によって異なる新たな要因が明らかになった。人々は低賃金労働に対して、「スキル不要」「低スキル」「単純作業」「楽な仕事」「将来につながらない仕事」といったステレオタイプを抱いている。これらの表現には、そうした職に従事する人々の能力や才能、知性に対する言外の意味が含まれている。
そこで筆者らは、知性に関する意思決定者のマインドセット──具体的には、人の能力は変化しないものと考えるか(固定マインドセット)か、時間とともに成長・発達する可能性があると考えるか(成長マインドセット)──が、低賃金労働者の賃上げに対する反対の度合いに影響している、との仮説を立てた。
そのうえで、米国とインドからの参加者3000人以上を対象に、10件の調査を通じて仮説を検証した。参加者の中には、最低賃金労働者を直接雇用している人事担当者や中小企業経営者が含まれていた。我々は、そうした意思決定者や雇用主に、低賃金労働者の賃上げをめぐる議論で主要な論点となる3つのポイントについて質問した。最低賃金の引き上げをどの程度支持するか、低賃金労働者の賃金をインフレ率に合わせて自動的に調整することにどの程度賛成か、従業員との利益共有をどの程度支持するか、の3点である。