その結果、相関研究と実験研究において一貫して、成長マインドセットを持つ参加者のほうが固定マインドセットの参加者よりも低賃金労働者の賃上げを支持していることが明らかになった。このトピックは米国において非常に政治的な話題だが、同様のパターンは「保守派」を自認する人にも、「リベラル」を自認する人にも同じように見られた。さらに、筆者らが行った複数の調査において、社会階層の高低や収入の多少にかかわらず同じパターンが見られ、また社会階層および収入とマインドセットの間に関連はなかった。

 なぜ成長マインドセットが意思決定者の賃上げ支持につながるのだろうか。筆者らの研究で明らかになったのは、成長マインドセットの強い人ほど、低賃金労働者自身のモチベーションの低さやスキルの欠如を責めるのではなく、彼らや貧困層の現状を状況的・環境的な要因によるものだと考えており、それゆえに賃上げによる彼らへのサポートに前向きであるということだ。

 近年、成長マインドセットはリーダーや組織から多大な関心を集めているが、議論の焦点は主に、成長マインドセットが「知的労働者」やマネジャー、リーダーをどうサポートできるかという点だった。一方、筆者らの研究から得られた重要な洞察は、同じ概念が、工場労働者や農業従事者、大半の組織で最低の賃金水準に位置づけられる清掃担当者やサービス業従事者の労働条件の改善にも役立つということだ。

 筆者らの行ったある実験では、被験者を無作為に振り分け、2種類の企業パンフレットのいずれかを読んでもらった。一方には成長マインドセットを支持する文言(「当社では、人間の知能は固定されたものではなく、時間をかけてレベルをかなり向上させられるものだと確信しています」)、もう一方には固定マインドセットを支持する文言(「当社では、努力による影響も多少はあるかもしれないとはいえ、最終的に各自の基本的な知能レベルは決まっていると確信しています」)が書かれている。

 被験者には、自分がこの会社のCEOだと仮定して、自社の人件費が増加することになっても、米国の連邦最低賃金を時給15ドルに引き上げる案に賛成するか否かを考えてもらった。すると、固定マインドセットを支持する文言を読んだ人は、成長マインドセットを支持する文言を読んだ人よりも、最低賃金の引き上げを支持する割合が顕著に低かった。たとえば、ある実験では、成長マインドセットのグループは固定マインドセットのグループと比べて、最低賃金引き上げを強く支持する人の割合が60%増加した。

 もちろんマインドセットは、低賃金労働者の賃上げをめぐる各自の見解を形づくる多くの制度的・心理的要因の一つにすぎない。そうした文脈において、筆者らの発見が示唆するのは、草の根運動の活動家やマネジャー、ビジネスリーダーや政治家が低賃金労働者の賃上げへの支持を広げたい場合、知性に関する成長マインドセットを喚起するというアプローチを検討してみてはどうかということだ。そうすることで、賃上げに反対する人に対して、自分の考え方が固定マインドセットから生じたものなのではないかと振り返るよう促し、自身の意見を見直すよう働きかけられる可能性がある(たとえば、成長と発達について説得力のあるストーリーを利用する)。

 さらに、成長マインドセットによって、低賃金労働者が置かれた状況や環境的背景に人々の関心を向けさせることができる。そのため、そうした視点を持つマネジャーやリーダーは、労働条件の他の側面(安全面など)や、組織ピラミッドの底辺層の昇進の機会(筆者らが今後、取り組みたい課題だ)についても改善したいという意欲を持つようになるかもしれない。

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックを通して、特定の仕事を「スキル不要」「低スキル」「単純作業」「楽な仕事」「将来につながらない仕事」などと見なしつつ、同時に「エッセンシャルワーク」扱いすることが重大な間違いである点が鮮明に浮かび上がった。そうした表現は不正確で有害であるだけでなく、知性についての考え方を成長マインドセットではなく固定マインドセットに導いてしまう。それが何百万人もの労働者の賃金にも危険な影響を及ぼしかねないことを、筆者らの研究は示唆している。


"Research: A Growth Mindset Can Boost Support for Increasing the Minimum Wage," HBR.org, November 06, 2023.