包摂的なペットポリシーに伴う課題
ペットの受け入れに期待する理由が少しは伝わっただろうか。では、課題についても率直に明かそう。
ペット可の職場は、プロ意識がなく、清潔ではなく、安全ではないと考える従業員が少数いるというデータがある。反対の理由は、文化的・宗教的な習慣、過去の出会いや恐怖症、健康・衛生・アレルギーへの不安、あるいは単なる個人的嗜好など多岐にわたる。ペット可という考え方には好意的な従業員も、現実的に騒がしく、破壊的、または攻撃的な動物と同じ空間で過ごすことになれば、不満を感じるだろう。
あるレディッター(Reddit投稿者)はこう書いている。「以前WeWork(ウィーワーク)で働いていた時、換気のために部屋のドアを開けていました。同じフロアのどこからか誰かの犬が飛び込んできて、みんなの仕事をじゃますることが何度あったかしれません。私は犬が好きなので、年老いたボクサーが構ってくれとせがむ姿は微笑ましいのですが、職場ではふさわしくないと思います」
従業員が取引先や請負業者、消費者など外部のステークホルダーと頻繁に接する組織では、このような懸念は大きくなる。オフィスのラブラドール、コーヒーショップの子猫、食料雑貨店の猫、そして理髪店の雄鶏さえも、来客の気分に好影響があると称賛されているが、これらの結果がどのような場所にも当てはまるとは限らないことに留意すべきである。
ペットの受け入れに抵抗のある従業員の中には、不安をオープンに表明する人もいるが、そうでない人も多い。秘密厳守でアドバイスを提供するサイトaskamanager.comには、何年も前からオフィスでのペット受け入れに賛成する人と反対する人の両方からの問い合わせが投稿されている。
ある研究では、この対立への対処法を探るために、20年前から3カ月前までの間に、ペット連れ可の規定を定めた企業5社を分析した。その結果、円満な共存や、オフィスをペット連れ禁止にしておきたい人々に受け入れられるのは難しいが、3つの条件を満たせば可能であることがわかった。
従業員に十分な自律性を認めること。たとえば、必要な時に犬を連れ出したり、煩わしく感じた時にペットから距離を置いたりする自由だ。また、我慢して苦しむ人が出ないように、互いを尊重し合うオープンなコミュニケーション文化があること。最後に、従業員全員が「トライ・アンド・エラーの精神」を受け入れ、いとわずに必要に応じて合意事項をアップデートしていくことである。
ペットポリシー策定のための実践的ガイダンス
ハイブリッドな勤務形態やオフィスへの段階的な復帰を試みているいまこそ、ペットポリシーを導入する絶好のチャンスだ。その際に重要になるポイントをいくつか挙げておこう。
職場とステークホルダーごとのニーズを理解する
いつ、どこで、どの動物を受け入れるか、飼い主の責任、違反した場合の対策を明確にする。指針になるようなリソースは幅広くある。たとえば、特定の動物種を禁止しても効果がなく、安全性を向上させるルールではないことがわかっている。それよりも、行動に基づいたガイドラインを導入するほうがよい(ドーベルマンを禁止するのではなく、迷惑犬を禁止するなど)。
地域や法律の要件を考慮する
あるレディッターが冗談で言ったように、「ロビーでビルマニシキヘビを飼ってはいけない」。事故が起こった場合の責任について検討し、社員食堂などのエリアの衛生管理基準を定め、これらすべてを従業員に伝える。
繰り返しになるが、一人で決める必要はない。ホスピタリティ業界や航空業界など、すでに特定のコンパニオンアニマルの受け入れに踏み切っている業界の知見が参照できる。ヒルトンは事故対策用の常備品、米運輸省はサイネージや安全に関する質問に回答している。「Pets Work at Work」のツールキットに模範的なガイドラインが掲載されている。
まずは試験的に小さく始める
ペットを同伴できる曜日やスペースを制限して、不安に感じる人のニーズを尊重し、オフィスへの導入を受け入れやすくする。関係者全員からのフィードバックを柔軟に受け入れる。余力のないマネジャーには、ペットに特化した従業員リソースグループ(グーグルのドゥーグラーグループ、もしくはスラックのペット関連チャンネルの参加者など)が大きな味方になる。
他の要望が出てくる可能性に備える
ここでは主にオフィスでのペットの受け入れについて取り上げてきた。しかし、これがほかの「ペットフレンドリー策」への道を開く可能性があることも認識すべきである。オフィスに連れて来られないペットを飼っている従業員に、ハイブリッド勤務や非出社日を要求される可能性がある(熟考を要するタスクや、共同作業ではないプロジェクトについては、研究者がすでに推奨している)。
ペットがけがをしたり、迷子になったり、高齢になった場合に、4本足の家族を世話し、悼むための休暇を要求される可能性もある。ペットは飼っていても子どもはまだつくらないという若い従業員が増えているが、福利厚生の拡充(ペット保険の団体加入による割引など)を要求される可能性もある。いずれも、自社の競争優位性になりうるが、コストはかかる。
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ペットの受け入れを検討する職場は増加し、多様化している。大多数の従業員は、ペットを飼っているか否かにかかわらず、受け入れに賛成しており、職場文化や生活の質の向上というメリットを得ているようである。しかし、もっともな不安を抱いている人も少数いる。したがって、今後対面型やハイブリッド型の職場のあり方を検討する際には、記録されているペットポリシーのあらゆる利点と課題を考慮に入れよう。
"Research: The Benefits of a Pet-Friendly Workplace," HBR.org, November 13, 2023.