ティックトックを活用し、さらに先へ
求人情報・応募サイトでは、いまもインディードやリンクトインといった仕事探しサイトが最も活用されているが、筆者が創業したデジタルマーケティング会社ハイアークリックスの調査によると、消費者はユーチューブやアマゾン・ドットコム、ティックトックなどのサイトで雇用主ブランディングに触れる機会が増えている。これは賢明な試みだ。
多くの消費者にとって、消費者向けメディアサイトで費やす時間と比べると、求人サイトに費やす時間は限定的である。したがって、こうしたサイトに有料の求人広告を掲載すれば、積極的に求職活動をしている人と同時に、受け身の人を含む大きな人材プールにアプローチできる。たとえば、航空会社はパイロット不足を補うために、ユーチューブやゲーミングプラットフォームのスチーム、インスタグラムなどで、コンテンツや関心に基づくターゲティング広告を打てるだろう。
だが、こうしたプラットフォームを活用する方法は広告だけではない。多くの組織は、既存の従業員やZ世代のソーシャルメディアマネジャーを活用して、積極的な採用メッセージを発信している。この過程で、競争が激しい雇用市場で競争優位をもたらしてくれる独自のインフルエンサーを育てることもできる。
語学アプリ「デュオリンゴ」のソーシャルメディアマネジャーを務めるザリア・パルベスは、そのよい例だろう。パルベスは、言語学習アプリの象徴的なマスコットである緑色のフクロウを演じると同時に、自身のティックトックアカウントで職場についての興味深い話をする。おかげで、デュオリンゴで勉強すべきか、この会社に就職すべきか迷うとコメントする視聴者もいるほどだ。マーケティングの世界では、ソーシャルメディアプラットフォームにおけるインフルエンサーの威力が何年も前から認識されてきたが、いまや採用や人事のリーダーもこのトレンドを利用し、これらの予測できない職場の権威者を活用して、優秀な人材を取り込もうとしている。
ただし、この戦略を実行するのに、大量のフォロワーを持つ従業員は必要ではない。進化を続けるソーシャルメディアのアルゴリズムのおかげで、組織の文化を体現する、リアルで共感を呼ぶオンライン上の存在を持つ従業員を一人活用すれば、ローカル市場や業界の関心に基づき人材にアプローチできる。とはいえ、リプレゼンテーション(ある集団にジェンダーや人種などの代表が存在することやその割合)は重要だから、組織はどのような人材を引き寄せたいかよく考えるべきだ。最近はコロナ禍に離職した女性の職場復帰が目立っており、この新しい(または再発見された)人材を活用したい企業は、女性であると自認する従業員を活用して、その属性特有の福利厚生を示せば、再就職を希望する女性にアピールできるかもしれない。こうした戦術はまだマイナーだが、主流になるのは時間の問題だ。
賢明なリクルーターにとって、ティックトックなどの消費者向けメディアチャンネルを戦略に取り入れることは不可欠といえる。しかし、ほかにも主流になりつつある独創的な採用マーケティングツールがある。最も先進的な採用担当者は、AI(人工知能)主導の採用活動の準備を進めているのだ。
AIを使った採用活動の複雑さとチャンス
すでに世界の企業の88%が、人事部門でAIを使用しているが、ガイドラインは限定的で、採用プロセスにAIをうまく導入した事例がようやく聞こえてきたというレベルだ。AIは、面接の「よくある質問」や日時決定関連タスクの自動化支援に使用されており、これにより採用担当者が応募者と個人的なつながりを築き、人物評価により多くの時間と労力を割くことを可能にする。最も一般的な使用例としては、職務記述書の迅速な作成を支援するものだろう。
しかし、AIを使った採用活動には、AIモデルに潜在的なバイアスがかかっている懸念がある。企業はAIアルゴリズムを駆動させるために使用されるデータに注意を払い、そのデータセットが幅広く多様な構成となるようにべきだ。また、企業はこれらのアルゴリズムに携わるAIエンジニアが、AI訓練データにバイアスを見つけて修正する訓練を受けているか確かめることもできるだろう。データセットのバイアスを最小限に抑えることは必須である。将来的には、クリエイティブな採用担当者がAIアシスタントを使って、特定の採用候補者をターゲットに定めて追跡し、具体的な経験や好みやニーズ、スキルに合わせてパーソナライズされたコンテンツを作成できるようになるだろう。
将来は、候補者のライフステージに基づく決定木分析(ディシジョンツリー)をたどるAIモデルも登場するだろう。たとえばある候補者について、転居を伴う異動をいとわないかどうかや、特定のポジションに求められるレベルの成果を出せるかどうかの予測をAIが支援する。はたしてAIは、求職者の上司となる人やチームメンバーとの潜在的なやり取りをモデル化できるようになるのか。募集ポジションの肩書きと業務を単なる文章で示すのではなく、ターゲットを絞った求人広告の段階で求職者と関わりを持ち、彼らが将来的に持てる従業員経験やキャリアパスを文章ではない形で示す採用プロセスを想像してみてほしい。
ターゲットを絞った採用活動のメリットを享受する
ターゲットを絞った求人広告は、多様な人材がもたらす無数のメリットを組織にもたらすこともできる。2023年6月に米最高裁が、大学入学選考におけるアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)を違憲と判断したことを受け、企業の採用活動におけるDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の確保がいちだんと重要になった。戦略的な求人広告活動を採用することで、企業は自組織の人材プールを多様化させ、従業員をよりインクルーシブ(包摂的)でクリエイティブな集団にできる。これは、組織内のさまざまな役割について綿密なターゲティング戦略を構築して、優秀な人材がその組織内でチャンスがあると把握できるようにすることで実現できる。
組織がよりクリエイティブな採用戦略を展開する可能性は無限に存在する。未開拓の人材プールを開拓し、人材パイプラインを多様化し、企業の価値観と一致するパーパス志向の候補者を見つければ、企業は競合他社に勝ち、長期にわたり成長と成功を維持するのに必要な人材を確保できるだろう。
"Creative Strategies for Recruiting Talent During a Labor Shortage," HBR.org, November 30, 2023.