
AIによる職場への影響を
さまざまな研究から探る
AIによる人材採用ツール、産業の自動化、ロボットアシスタントといった新しいデジタル技術が、現代の職場を変容させている。これらのシステムの多くは、効率性や生産性、ウェルビーイングの向上を成果として掲げているが、これらに日々接する人々に対し、実際にはどのような影響を及ぼしているのだろうか。
これは複雑な問題であり、明確な答えはない。とはいえ、テクノロジーが職場や従業員に及ぼす影響について調べた研究は増えており、多くのメリットと深刻なリスクの両方が浮き彫りとなっている。
AIは人材採用をどう変えているか
テクノロジーが職場にもたらした最も顕著な変化の一つは、採用の場面で起きている。AIツールは、採用担当者による履歴書の選別、履歴書に添付された送付状の確認、さらにはバーチャル面接の実施も支援できる。しかし、これらのツールは、採用プロセスに新たな複雑さとバイアスを生じさせる可能性もある。
AI採用ツールは、誰が応募するかに影響を与えるおそれがある
ある調査において、研究チームは米国に住む500人余りの成人に、AIを使ったシステムを通じて職に応募するという想定の下で、協力を依頼した。
その結果、事前に応募先の雇用主に対して大いに魅力を感じ、かつ一般的なAIに肯定的な感情を持っている候補者は、応募を完了する割合が高かった。一方、AIに不安や不信を抱いている候補者、または雇用主に対してあまり魅力を感じていない候補者は、応募プロセスでAIとのやり取りを義務付けられた場合、応募を完了する割合が低くなった。
したがって、採用プロセスに自動化ツールを導入すると、それぞれの候補者に異なる形で影響を与え、最終的に誰が応募するかに、意外な形で影響を及ぼす可能性があるとわかった。
適正審査の自動化は、バイアスを永続させかねない
AIに基づくシステムが人間のバイアスを永続させる可能性については、よく知られている。しかし、新たな調査において、性別を明示する情報(名前や人称代名詞など)が除去されている場合でも、今日の高度な機械学習モデルは、候補者の性別を正確に判断できることが示された。
さらに同調査では、仕事に関連する特性について調整を行った後、候補者の履歴書に含まれる要素が当人の性別と一致しない場合──つまり女性の履歴書に、伝統的に男性的な特性が含まれているような場合──面接にたどり着く可能性が低かったことも判明した。
人間による差別よりも、アルゴリズムによる差別に対してのほうが人々の怒りは小さい
AIによってバイアスの影響範囲が広がることを考えると、企業はAIツールの使用をやめるべきという圧力を感じることになるのだろうか。ある研究論文は、おそらくそうはならないだろうと論じている。
8つから成る一連の調査を通じて、研究チームは次のことを発見した。人は、アルゴリズムが差別をするという事実を知った時のほうが、同じ差別的判断を下したのが人間であると知った時よりも、はるかに怒りが小さいことがわかった。したがって、差別が自動化ツールによって永続的に行われている場合、組織のせいだと責められる可能性は低い。