職場の自動化には代償が伴う

 個々の従業員の体験に与える影響と並行して、自動化の急速な普及は、マクロレベルで社会、政治、経済の動向にも著しい影響を及ぼしてきた。

 米国の14年分の国勢調査データを、全米における産業用ロボットの普及と相互参照した分析によれば、かつて人間が従事していた仕事の自動化は、薬物過剰摂取による死亡、自殺、殺人、心血管死亡率の増加と関連している。

 さらに、健康に関する直接的な結果に留まらず、職場の自動化は意外な形でネガティブな感情を助長するおそれもある。一例として、3万人以上の米国人と欧州人から得たデータでは、自動化で自分の雇用の安定が脅かされるという不安が高まるにつれて、反移民感情が強まる傾向が示されている。

自動化は米国の労働力の構成を
どう変えているのか

 たしかに、自動化は労働者の生活を向上させる可能性がある。だが一方で、自動化が雇用の安定を脅かすというよく耳にする不安は、けっして根拠のないものではない。実際、AIやその他の自動化技術への投資の増大は、労働力の構成に著しい影響を及ぼしうることをデータが示している。

 自動化によって高学歴者の需要が高まり、組織構造がフラット化する

 ある研究チームの発見によると、企業レベルのAIへの投資は、高学歴労働者の採用の増加と相関する傾向があるという。加えて、自動化が進んでいる企業は、若手社員が多く、中堅・幹部社員が少ない、よりフラットな組織になる傾向がある。

 自動化によって低賃金・非サービス業の職が減少する

 経済全体のレベルでは、米国雇用データの分析結果によると、自動化が進むことで、ロボットに代替可能な低賃金職の雇用機会が減少しているという。興味深いことに、この変化に伴って、自動化できない低賃金職、つまり人間をロボットで代替できないサービス職などは、雇用機会が増えている。しかしこの増加は、対人要素がない職の減少を補うほど十分ではない。

 また、自動化による雇用喪失は、アジア系以外の有色人種の間で最も多いことも調査で判明し、人種への公平性、経済動向、技術進歩の複雑な相互作用が浮き彫りとなっている。

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 あらゆる新しいテクノロジーの成長がそうであるように、近年における職場用デジタルツールの爆発的な普及は、よいことばかりではないし、悪いことばかりでもない。進歩に対する楽観と熱狂に偏りすぎず、これらのツールが人々にもたらしうる極めて現実的な──そして常に好ましいわけではない──影響を認識し、バランスを取ることが求められる。

 新たな研究でこうしたさまざまな影響に関する調査が進む中、リーダーは継続的に自分の想定や思い込みを検証し、過度の単純化を避けなくてはならない。そして、自身の意思決定が、あまり考えもないままに起こる反応や直感のみによるものではなく、最新のデータとエビデンスに基づくよう努力しなければならない。


"Research Roundup: How Technology Is Transforming Work," HBR.org, November 07, 2022.