ささやき役、副操縦士、バーチャルな「相談相手」として

 AI技術、とりわけ生成AIが意思決定において重要な役目を果たす3つ目の領域は、バーチャルのアドバイザーや相談相手としての役割だ。筆者らが人間機械認知研究所(IHMC)の研究者コンスタンティノス・ミトプロスに話を聞いたところ、以下のように答えてくれた。

原則として、生成AIシステムは、人間の意思決定に影響を与える問題──ワーキングメモリーの制限、注意力の持続時間の短さ、プレッシャーを感じる状況下での意思決定による疲労など──を克服する一助となる。生成AIツールのおかげで、意思決定者は時間とエネルギーを節約し、最も重要な課題や質問に集中する時間を確保することができる。

 たとえばヘルスケア分野では、AIシステムは効果的な意思決定に必要な重要データを自動的に選別・合成する、医薬品に関する不要な警告を減らす、患者のフォローアップ行動やコミュニケーションを自動的にトリガーする、といった形で医師の認知負荷を軽減してくれる。ほかにも、ビジネスの継続性や危機対応管理から、多様な金融投資のリスク評価まで、多くの活用法が考えられる。

 最近台頭しているのは、生成AIを意思決定の「副操縦士」として利用する試みだ。副操縦士役のAIに、動的な状況下で情報を評価させたり、選択肢や次善の策を提案させたり、タスクを完了させたりする。

 シカゴを拠点とする運用リスク管理のソフトウェア企業、フュージョン・リスク・マネジメントが開発した生成AI搭載アシスタント「レジリエンス・コパイロット」は、大量の運用リスクデータを精査し、意思決定者にとって重要な要素を特定し、エグゼクティブ向けの要約や即時の洞察、知的な推奨、ベストプラクティスの改善点を提案してくれる。

 ソフトウェア開発の分野も同様だ。ギットハブ・コパイロットは生成AIを活用してソフトウェア開発企業にコーディングに関する提案を提供し、ソフトウェアをより迅速に市場に投入できるようサポートしている。

 さらに、生成AIは組織のレピュテーションマネジメントにも活用されている。その一例が「ソーシャルリスニング」ツールだ。これは、マーケティングやソーシャルメディアの担当者がオンライン上のフィードバックやレビューをリアルタイムで追跡し、対応方法について効果的な判断を下すサポートをするツールである。

 カリフォルニアに本社を置くレピュテーションマネジメントのソフトウェア企業レピュテーションは、複数のソーシャルメディアチャンネルで企業のオンラインレビューをリアルタイムで監視するサービスを提供している。否定的な投稿が増えれば即座に警告を発し、危機的な事象について監視し、ソーシャルメディアの監督者が否定的なコメントに対処する方法を推奨してくれる。

 アイデアを確かめたり試したりするバーチャルな「相談相手」として生成AIを利用するのも、極めてポテンシャルの高い活用法の一つだ。筆者らは、IHMCのシニアサイエンティストで、元米海軍パイロットのマット・ジョンソンにインタビューを行った。

適切な使い方をすれば、生成AIは素晴らしいチームメートになってくれる。何かの問題について、すでに自分で解決策がわかっているつもりでも、同僚にも相談してみたいと思うのと同じことだ。また、AIは組織について長期的な記憶を保持できるため、新たに組織に加わった人が、過去に問題がどう処理されたかを知りたい場合にも有用だ。

 実際、生成AIのこうした「創造的な側面」は今後、多くの分野や業界の意思決定者にとってこれまで以上に重要になるだろう。その理由の一つは、往々にして非常に少ないサンプルから大量の「合成データ」を作成し、現実世界のプロセスや事象の確率的構造を模倣できるという生成AIの能力にある。こうした合成データは、発生頻度は低いが甚大な影響を生み出す事象──たとえば、保険審査において人間が見逃してしまうような巧妙な詐欺──をめぐる意思決定モデルやシナリオの作成に役立つ。

 また生成AIは、極めて大規模な顧客データセットを、プライバシーに配慮したバージョンで作成することも可能だ。このバージョンなら、AIと人間の双方が意思決定の際に安全に共有できる。2017年に設立されたオーストリアのAI企業、モストリーAIは、ヘルスケア分析やデジタルバンキング、保険料の設定、人事分析など多様な領域で合成データモデルを活用し、意思決定の改善に役立てている。

人間と機械の信頼構築のための必須条件

 AIシステムが人間の意思決定をサポートし、場合によっては人間の意思決定に取って代わるために利用されるケースが増えているが、一方で課題やリスクも山積している。たとえば、潜在的な偏見や倫理違反、データの出所についての懸念、正確性などに関するリスクである。

 こうしたリスクは、AIテクノロジーに投資する企業にも、いくつかの重要な問いを投げかけている。意思決定者として、どのような場面で人間より機械を信頼するのか、人間と機械の効果的な協働を実現するための条件は何か、人間が持ち合わせている専門知識や判断能力をどのように考慮すべきか、といったものである。

 筆者らの調査と経験から浮かび上がった、ビジネスリーダーに必須となる4つの条件を以下に紹介しよう。