機械学習プロジェクトを失敗させない6つのステップ
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サマリー:機械学習プロジェクトは、重要なリスク対応や業務改善に役立つ可能性があるが、実際には成果を上げられないことが多い。つまり、運用環境に導入する以前に行き詰まり、多大な損失を出しているのだ。これは、テクノロ... もっと見るジー自体や開発にばかり注力し、どうデプロイするのかを考えていないことに原因がある。本稿では、この状況を打破するために、ビジネスとデータの専門家に向けて、構想からデプロイまでの6ステップから成る「bizML」という枠組みを提案する。 閉じる

機械学習プロジェクトで開発に注力しすぎていないか

 人類の最新にして最大の偉大な発明が、出だしからつまづいている。機械学習プロジェクトは、山火事や気候変動、パンデミック、子どもの虐待などの極めて重大なリスクを回避する助けとなる可能性を秘めている。また、売上増加やコスト削減、不正行為の防止、製造の合理化、医療の強化に役立てることもできる。

 ところが機械学習の取り組みは、いつも成果を上げることに失敗している。あるいは、まったくデプロイできないこともある。つまり、開発したものを運用環境に導入する以前に行き詰まり、多大な損失を出している。主な問題の一つは、企業がテクノロジーに注目するわりに、それをどうデプロイすべきかを考えていないことだ。これは、ロケットを打ち上げることよりロケット開発に興奮しているようなものである。

 本稿では、この状況を打破する解決策を提供したい。それは機械学習プロジェクトを構想段階からデプロイへと導く6つのステップの実践であり、筆者はbizMLと呼んでいる。この枠組みは、ビジネスのプロフェッショナルにもデータのプロフェッショナルにも関連があり、説得力を持つような、機械学習プロジェクトを成功させるための最新の業界標準のプレーブックを確立する試みである。

テクノロジーからデプロイへと焦点を正す

 機械学習の問題は、その人気の高さにある。核心的なテクノロジーについては熱く語られるものの、それをどのようにデプロイすればビジネスのオペレーションが向上するかという具体的な詳細まで掘り下げられることはない。人気の高さが仇になっているのである。過去数十年のコンサルティングや機械学習のカンファレンス運営の経験を通して、筆者はその教訓を痛感している。

 昨今の機械学習に関する過剰な宣伝は、明らかに度が過ぎていて、よくある勘違い、機械学習に関する誤った認識を助長している。誤った認識とはすなわち、機械学習のアルゴリズムは新しい未知の状況にも通用するモデルを生み出せるので(素晴らしいことであり真実である)、モデルはそれ自体に価値がある(必ずしも真実ではない)というものだ。

 組織に変化をもたらす時、つまり機械学習の生成するモデルが積極的なオペレーション向上のためにデプロイされる時に初めて、機械学習の価値は生まれる。組織の活動を積極的に再編成するために利用されない限り、モデルは無用の長物だ。モデルそれ自体はビジネスの問題を解決しないし、それ自体でデプロイすることもない。機械学習が評判通りの破壊的テクノロジーになりうるのは、破壊するために使われた時のみである。

 残念ながら、企業はしばしばビジネスとテクノロジーの「カルチャーギャップ」の橋渡しに失敗する。データサイエンティストとビジネスのステークホルダーとの間の断絶によって、デプロイまで進めることができず、モデルは埃をかぶることになる。

 かたや、機械学習モデルの開発を進めるデータサイエンティストは、データサイエンスのみに執着し、「凡庸な」経営活動に煩わされるのを好まない。モデルは当然現場でデプロイされるものと思い込み、ステークホルダーと協働してデプロイプランを練るという極めて重要なビジネスのプロセスをすっ飛ばしてしまうことが往々にしてある。

 一方、ビジネスのプロフェッショナル、特に「テクニカルすぎる」と具体的な詳細まで踏み込もうとしない人々は、この驚くべきテクノロジーを、それ自体で問題を解決できる万能薬と見なしたがる。そして、プロジェクトの詳細は何であれ、データサイエンティストに任せようとする。しかし、デプロイしたモデルがオペレーション上の変更を引き起こすことが明らかになったとたん、話は暗礁に乗り上げる。不意を突かれたビジネスリーダーは、会社の収益性のカギを握るオペレーションの変更に二の足を踏んでしまうのである。

 誰も積極的な当事者意識を持とうとしないため、ホースと蛇口がつながらない状態だ。データサイエンティストが実行可能なモデルを提供しても、オペレーション側にパスを受け取る態勢ができていないためにボールを落とすことが多すぎる。素晴らしい例外や目を見張るような成功例もあるとはいえ、私たちがいま目撃している残念な実績は、機械学習に対する広範囲な幻滅をもたらし、恐るべき「AIの冬」すら予感させるのである。