ストレスを断ち切りたければ、嫌な出来事を思い返すのはやめよう
Illustration by David Milan; Francesco Carta fotografo/Getty Images (rocks); Pexels (woman and flowers)
サマリー:米国人の76%は、ストレスがウェルビーイングに悪影響を及ぼしていると述べている。筆者はマインドフルネスに基づく行動療法の専門家として、ストレスがかかった経験を反芻してしまう「固執的な認知」の思考状態を変... もっと見るえることで、ストレスのサイクルを断ち切る方法を提唱する。本稿では、考えすぎる状態に陥ることを避け、ストレスから解放される状況を増やすための4つの戦略を示す。 閉じる

ストレスを反芻する思考に陥っていないか

 ストレスが原因でみずからのウェルビーイングに悪影響が及んでいると述べている人は、米国人の76%以上に達している。せめて一時的にでも、ストレスの原因を遠ざける方法を身につけられれば、喜ばしいことと言えるだろう。

 瞑想をしろとか、単に気持ちを落ち着かせろと言うつもりはない。現代社会の状況を考えると、自分の気持ちを落ち着かせようと努力しても、それが可能な場合は限られている。筆者が提唱するのは、考え方を変えることで、ストレスのサイクルを断ち切る方法である。これは間違いなく可能だ。

 筆者は臨床心理士として、マインドフルネスに基づく行動療法を専門にしている。その経験を通じて気づいたのは、多くのクライアントがストレス研究者の言うところの「固執的認知」(perseverative cognition)の状態に陥っているということだ。これは、物事を考えすぎたり、同じことを何度も繰り返し考えたり、過度に心配したりすることを言い表す用語である。

 この種の思考は、ストレスに対処する上で有効に思えるかもしれない。しかし、科学的研究によると、実際には、こうした思考により、急性のストレス(単一の独立した出来事や状況への反応)を長期のストレスへと移行させてしまう可能性がある。すぐ過ぎ去るはずのものを無用に長引かせてしまうのだ。

 ペンシルベニア州立大学の研究チームが実施した研究によると、過去に腹立たしく感じた出来事について思い返すよう求められた人は、それが何十年も前の出来事だったとしても、その出来事を経験した時の影響を体がすべて再体験し、血圧が急激に上昇するという。同様に、いら立ちの感情を際限なく吐き出し続ける場合も、その人がストレスの原因となる物事を強く意識し続ける結果を招く。

 こうした固執的な認知状態に陥ると、過去に苦痛を経験した時の緊張がすべて再現される。その結果として慢性的にストレスを感じ、それに伴う弊害が生じたとしても不思議ではない。

 幸い、いまこの瞬間のことだけを考える能力を磨けば、職場におけるやっかいな問題にせよ、私生活上のトラブルにせよ、いますぐには解決できないストレスの原因になる出来事を、脇に置けるようになる。「慢性的なストレス要因があっても生涯にわたる影響が生じない場合もあれば、急性的なストレス要因が生涯にわたる影響を生み出す場合もある」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソンスクール・オブ・マネジメント(UCLA)の心理学を専門とする教授で、同大学の「ストレス評価・調査研究所」の所長も務めるジョージ・スラビッチは言う。

 筆者は、自分のクライアントが考えすぎから脱却するのを後押ししようとする時、『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラーにもランクインした著書を持つ瞑想指導者のシャロン・サルツバーグから聞いた話を紹介することが多い。その話とは、次のような内容である。

 ある男がネパールでトレッキングをしている途中で、足にまめができた。トレッキングをする間、この人物は周囲の大自然を満喫しようとせず、地面を踏みしめる時に感じる足の痛みを先回りして予測ばかりしていた。そして、予想通り足に痛みを感じると、次の一歩を踏み出すまでの間、その痛みの経験を頭の中で反芻し続けた。その結果、トレッキングの経験そのものが際立って不愉快なものになってしまった。

 私たちも、現在の平穏な状況に目を向けず、過去にストレスをもたらした出来事を再体験してしまうことがしばしばある。しかも一度だけでなく、何度もそうしたことを繰り返す場合も少なくない。本稿では、考えすぎる状態に陥ることを避け、ストレスから解放される状況を増やすための4つの戦略を示す。