あらゆる層からリーダー候補者を発掘する

 多様性は企業にとっての競争力になる。テクノロジーの進化が目覚ましく、産業革命や情報革命に次ぐ変革期においては、なおさらである。現代の企業には、イノベーション創出や働き方の見直し、環境問題への対応、M&A(企業の合併・買収)、次世代リーダーの育成など、解決すべき課題が数多くある。その課題解決のカギは、ダイバーシティ(多様性:D)であり、エクイティ(公正:E)であり、インクルーシブネス(受容:I)である。そう強く信じられるのは、筆者自身がEY Japan(日本におけるメンバーファームの総称)の経営チームの一員としてDE&Iを推進しているからにほかならない。

 日本人の両親のもとに生まれ、千葉県で育った。小学校では、作文コンクールで表彰され、学級委員を任されるような子どもだった。だが、8歳の時に父親の仕事の都合により渡米すると、アジア人であることを理由に壮絶ないじめにあった。言葉も満足に話せず、「自分は変わっていないのに、なぜ社会が違うだけでこのような目に遭うのか」とつらい時期を過ごした。10代前半にゲイであることを自覚し、高校時代に友人と両親にカミングアウトした。まだ同性愛が精神病の一種とされ、HIVはゲイの業病であるという偏見のあった時代だ。自分のセクシュアリティに悩み、みずから命を絶つことも何度か考えた。

 大学卒業後の1996年、当時「世界6大会計事務所」の一つであったEYの米国法人に入社できた。EYの共同創業者であるアーサー・ヤングは、聴覚と視覚の障害があったが、弁護士と公認会計士の資格を持ち、その専門性をサービスする会社を起業した。多様性を尊重する企業文化が当時からあり、企業200社の多様性の度合いを調査した書籍[注1]でも、LGBTをサポートする項目にチェックがあった6社のうちの一つだった。