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破壊的な変化の過程で起こる問題を軽視していないか
クレイトン・クリステンセンが『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)の名論文「Disruptive Technologies: Catching the Wave」(邦訳初出「ハイテク萌芽市場を制する分岐技術」DHB1995年7・8月号、新訳「イノベーションのジレンマ」DHBR2009年4月号)で破壊的イノベーションの概念を初めて紹介し、その後、彼の代表的著書『イノベーションのジレンマ』が出版されてから30年近くになる。クリステンセンは当初、「破壊」とは、「既存市場のローエンドに、性能や機能を抑えて低価格で参入するイノベーションまたは新技術」と定義していたが、やがてその概念を広げ、市場創出や既存市場の再発明となる可能性のあるイノベーションを含むようになった。
こうした中核となるコンセプトが支持を得たことは間違いない。今日、破壊は至るところで起こっており、新興企業も既存企業も、革新的な製品を生み出そうと、また業界を根底から覆し、市場をつくり変えるような変化を予測しようと、たゆまぬ努力を続けている。
しかし、失敗も多い。多くの企業がその方法論を活用する努力を怠っているのも事実だ。破壊を推進する戦略の実行プロセスは、シックスシグマのような実践的な経営手法として浸透しておらず、広く議論され、研究されてはいるものの、いまだ使いこなすのが難しいものとなっている。
この悩みは、幅広い業界に及んでいる。自動車メーカーやモビリティ企業は自律走行車に多額の投資を行ったが、本格導入はまだ遠い先の話だ。電気自動車の成長は鈍化し、自動車メーカーは生産を縮小している。電力などのエネルギー企業は再生可能エネルギーから撤退した。テック大手でさえも思い通りにいっていない。フェイスブックはメタ・プラットフォームズに改名した後、2019年から2023年にかけてメタバース部門が510億ドルという巨額の損失を出し、同事業から軸足を移した。グーグルの親会社は、月探査に特化した「X」部門を再編した。
これらの企業は、理論的には成功に必要な基礎的要素を確立している。つまり、将来ビジョンを描き、ロードマップとマイルストーンを設定し、経営資源を投入し、メタのReality LabsやグーグルのXのような別働隊に多額の資金を提供した。では、なぜ破壊は難しいのだろうか。
筆者らが行った調査や企業との取り組みによると、失敗の根本的な原因は、実行プロセスにおける文化、組織、市場開拓に関連した実際的な問題にある場合が多い。破壊の起こり方について、より観念的で回顧的に説明する場合は、このような障壁を軽く扱うことが多いが、実際には重要な役割を果たしている。
逆境を乗り越えるためには、よくある4つの課題を克服する戦略が必要となる。
破壊という霧の中を進む
破壊的変化は、特に市場創生の初期において、複雑性と不確実性を生み出す。成功する企業の多くは効率性を追求するため、複雑性に遭遇すると、それを単純化しようとする。しかし実際には、市場がどのように成長するかを左右する多様に絡み合ったリスクを十分に検討しないまま、膨大な量の情報や視点を、わずかな仮定だけをもとに整えたシナリオに落とし込むことになりかねない。