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「失われた中間層」の潜在能力を活用する
ビジネスリーダーでありダイバーシティの提唱者でもある筆者らは長い年月をかけて、企業の雇用慣行が、ニューロダイバース人材(非定型発達者)を探し出し、中に組み入れ、サポートする方向へと進展するのを見てきた。ただしそのほとんどは、市場で競争優位に立てるテクノロジーおよびコンサルティング部門の限られた職務においてのインクルージョンとダイバーシティに集中している。このアプローチでは、貴重なスキルを持ちながらその能力を発揮する機会に恵まれない自閉症の人々の大多数が有する潜在能力を見落とすことになる。
こうした人々は「失われた中間層」と呼ばれ、サポートの必要がほとんどなくソフトウェア開発や金融モデリングなどの高度に専門化された技術的スキルを持つ人々と、集中的かつ複合的な日常ケアが必要であるがゆえに働くことができない人々との中間に存在する。
米国の実業界が見落としている多くのニューロダイバース人材は、精神を集中して、細部に注意しながら順序立ったタスクを行うことにおいて卓越した能力がある。それは、どの業界でも高く評価される特性だ。経理担当、データ管理のアソシエート、在庫管理担当、デジタルマーケティングの専門家などは、多くのニューロダイバース人材に適した職種となる。
失われた中間層が潜在能力を発揮することは、企業にとって成長の大きなチャンスとなる。ただし、ニューロダイバース人材が最高のパフォーマンスを発揮するには、明快なコミュニケーションやルーチンの構造化、感覚を過度に刺激しない環境など、配慮のある対応が必要だ。経営者がこうした調整に向けて投資すれば、ニューロダイバース人材の活躍が促進されるだけでなく、まだ活かされていない豊かな才能が活用されることにより、インクルーシブで健全な労働市場が形成されることになる。
米国には900万件の求人があるのに対して、失業中の労働者は610万人に留まる。したがって、いまこそビジネス界は、雇用の対象を自閉症やほかの障害を持つ人々にも広げることで得られる経済的価値に気づくべきなのである。自閉症やほかの障害を持つ人々を雇用することは、企業のニーズを満たすだけではなく、障害を持つ人々に尊厳を与え、障害を持つ人々が自活し、家族を養い、社会で提供されるあらゆる機会に参加することを可能にする。
残念なことに、類稀な、目を見張るような才能があると認められる場合を除いて、障害のある人は価値あるスキルや知識、専門能力を実業界に提供できないという考えが、いまだに一般的だ。だが、これは真実とはほど遠い。ニューロダイバース人材の実力に触れれば考えも慣行も変わることを、筆者らは実体験として語ることができる。
本稿執筆者の一人であるチェット・ハーウィッツが共同設立した非営利団体、ベンチャーズATLは、ニューロダイバース人材を雇用して、データ管理サービスを提供している。ある電気通信事業者のクライアントの案件では、同団体がさまざまな第三者検索ツールを利用して、顧客データベースの重要要素(地理的位置、産業分類、企業ヒエラルキー)の正確性を維持管理している。クライアントはその情報に基づいて、何万件もの顧客関係において、顧客サポートの責任範囲やサービスの関与度、内部売掛債権の配分を判断している。また、適切な業界指定をして(救急機関など)、通信事業者が迅速なサービス復旧を求められる際の優先順位を決めている。