企業が従業員との心理的契約を見直すべき理由
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サマリー:変化の激しい時代において、改革は継続的なものへと変化している。しかし、予測可能な世界に生きてきたために、改革が稀なものだと考えてきた従業員は、終わらない改革を前に、意欲を低下させている。いまこそ、従業... もっと見る員と雇用主の間で信念や認識を共有した心理的契約の見直しが必要だ。本稿では、改革に真摯に取り組んだ企業が従業員エンゲージメントと信頼を高めた事例を紹介し、心理的契約をいかに見直すべきかを提案する。 閉じる

改革は継続するものだと従業員に再認識させる

 現実を直視しよう。私たちは改革の取り組みに大きく失敗している。2023年5月に発表されたガートナーの調査によれば、従業員が会社の改革を支援する意欲は2016年の74%から、2022年にはわずか43%にまで落ち込んでいる。

 2024年6月に発表されたギャラップの報告書「世界の職場の状況2024年版」では、大きな不満が浮き彫りとなった。従業員の23%は仕事に高い意欲を持ち活躍しているのに対し、62%は雇用されているが意欲がない、つまり「静かな退職」状態にある。

 同報告書には、筆者をただただ悲しくさせるデータもある。世界の従業員の実に15%が「騒がしい退職」をしており、組織に直接的に害を及ぼし、組織の目標を妨げ、リーダーに反発しているのだ。

 鉱業、建築資材、銀行、非営利やその他多くの業界で筆者が過去1~2年の間に実施してきたフィールドワークを振り返ると、従業員の抵抗や妨害の多くは、改革というテーマに直接関連していることが観察された。この抵抗は、組織が改革に関して従業員との間に(意図的または暗黙のうちに)結んでいる、心理的契約を見直す必要性を示唆している。

 説明しよう。

 ハーバード大学名誉教授だったクリス・アージリスが最初に提唱し、カーネギー・メロン大学教授のデニス・ルソーが定義を発展させた心理的契約は、通常は次のように説明される。「従業員と雇用主の間における、明文化されていない一連の期待事項。双方間での非公式な取り決め、共有される信念、共通の土台や認識などが含まれる」