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従業員の改革への意欲は急落している
企業がハイブリッドな働き方に磨きをかけ、デジタル化の要請に応え続ける一方、物価上昇や継続的な人手不足、そしてサプライチェーンの逼迫に対応するために、2023年もビジネス・トランスフォーメーション(BX)は最重要課題であり続けるだろう。
こうした環境下では、より高いレベルの生産性と成果が求められ、多くの改革が実施されることになる。ITアドバイザリー企業のガートナーによると、2022年、平均的な従業員は、計画された事業改革(効率化のためのリストラ、新しい働き方を拡大するための文化改革、レガシーテクノロジーの入れ替えなど)を10件経験した。2016年の2件から大幅に増加している。
さらなる改革が控えている一方で、従業員は壁にぶつかっている。ガートナーの調査によると、従業員が会社の改革をサポートする意欲は、2016年に74%だったにもかかわらず、2022年には43%に急落している。
筆者らは、必要とされる改革の努力と従業員の改革意欲のギャップを「トランスフォーメーションの赤字」と呼んでいる。機能的なリーダーが迅速かつ手際よく舵を取らなければ、この赤字は組織の成長を妨げ、従業員経験にダメージを与え、エンゲージメントを低下させ、離職率を押し上げるだろう。
皮肉なのは、チームや組織の変更、雑務の自動化、企業文化の見直しといったトランスフォーメーションの多くは、従業員のバーンアウト(燃え尽き症候群)や疲労を緩和して、効率を高めることを目指していることだ。残念ながら、多くのリーダーは、応急処置的な方法によってチェンジマネジメントに取り組もうとしている。これは持続不可能な方法と言わざるをえない。
大きな落とし穴:変化を急ぎすぎている
現代のチェンジマネジメントで最もよくある間違いは、ひたすらアクセルを踏んで改革を進めようとすることだ。2022年のガートナーの調査によると、75%の組織がトップダウン式の改革アプローチを採用している。つまり、リーダーが改革の戦略を決め、詳細な実行計画を練り、大量のコミュニケーションを展開する。それによって、新たな道へ向かうことに従業員を賛同させ、管理職に改革の擁護者やロールモデルとして改革の指揮を執らせようとする。
残念ながら、コロナ禍への対応は従業員に多くを要求し、彼らはそれに応じる過程で大きな代償を払った。延々と全力疾走を求められた結果、多くの従業員はガス欠状態でも走り続けることになった。ガートナーの調査では次のようなことがわかっている。
・従業員の55%が混乱期も高い成果を維持しようとして、みずからの健康やチームとの関係、そして職場環境に大きなダメージを受けた。
・組織に大きな信頼を抱いていると答えた従業員は、36%にすぎなかった。出社勤務している従業員からの信頼が最も低かった。
・従業員の半分は、タスクが増えるばかりの環境で、それをこなすのに必要な情報や人材を見つけるのに苦労していると答えた。
持続可能なトランスフォーメーションに向けて
ガートナーの分析によると、組織改革に向けてエネルギーを最大限に活用するために、リーダーが注力すべきことが2つある。「改革の優先順位」と「疲労の管理」だ。
改革の優先順位
改革に優先順位をつけるためには、リーダーは重点課題のやり残しを従業員に伝えて、どこにエネルギーをそそぐべきかを明らかにする必要がある。こうした手引きがないと、従業員はそれぞれの改革に110%のエネルギーを注いで、バーンアウトに陥ってしまう。
多くの企業の経営幹部は、すでに最も重要な組織プロジェクトやイニシアティブをランク付けしているが、その情報は経営幹部のディスカッション以外の場では共有されていないことが多い。これをもっと広く伝えれば、チームはエネルギーや労力の配分をさらに効果的に管理できるだろう。
たとえば、カナダの保険会社ザ・コオペレーターズでは、ITリーダーが毎月、重点課題の進捗具合を全従業員に公表している。このように重点事項を可視化すると、従業員はビジネスの仕組みを理解し、どこに注力すべきかについて現実的かつ重要な判断を下すことができる。
リーダーが、改革イニシアティブの最適な実行スピードを決める時は、一歩下がって従業員の経験を考慮に入れる必要がある。フィリピンの通信事業者スカイケーブルでは、絶え間ない技術革新による疲労を最小限に抑えるため、ITリーダーがガイドラインを作成している。これには、「ソリューションは旧バージョンと視覚的に似たものにする」「変化の激しい時期は、従業員を混乱させるプロセスの変更は最小限に抑える」などの事項が記載されている。スカイケーブルは、自部門外が行う改革と同期させたリリースカレンダーを作成している。その結果、ITリーダーは新しい改善策を導入する最適なタイミングを見極めることができる。
改革の優先順位付けは、リーダーが断念すべき改革を見極めるのにも役立つ。もし、ある改革が常にやり残しリストの一番下にあり、いつも先送りされているなら、おそらくそれは重要な改革ではない。