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リーダーと従業員の心理的な契約が破綻している原因
尊厳の侵害は現代の職場ではよくあることだ。
尊厳とは、人間が本来持っている価値と定義される。しかし、組織においては、従業員の価値は組織の目標にどれだけ合致しているかに結びつけられることが多く、その結果、労働者の尊厳を傷つける行動や慣行が生じている。
尊厳の侵害は、従業員が代替可能な「モノ」として扱われる時に起こる。たとえば、献身的な従業員が一通のメールで突然解雇されるような場合だ。同様に、従業員が酷使されたり、十分な報酬を受け取っていなかったり、会社での地位や立場によって敬意を持って扱われなかったりする時も、従業員の尊厳が傷つけられることがある。
実際、尊厳の侵害は、今日、リーダーと従業員との間の心理的契約が破綻している主な原因かもしれない。データによれば、経営者が成果や利益、経営目標よりも労働者の人間性を十分に評価しないことが、「静かな退職」(クワイエット・クイッティング)や「大退職」(グレート・レジグネーション)といったトレンドを引き起こす最大の原因となっている。
尊厳とは、ビジネスリーダーが労働者との有意義な関係の維持に苦労していることの根本原理の一つであると、筆者らは考えている。リーダーがこれらの課題を乗り越え、尊厳を持って人を導くための統合的な枠組みと実用的な洞察を提示する。
尊厳は仕事の人間関係にどう影響するか
筆者の一人のドナ・ヒックスは、イスラエル、パレスチナ、スリランカ、北アイルランド、コロンビア、リビアなど、今日の政策リーダーが直面する最も困難な問題を含む国際紛争の解決に30年以上携わってきた。ヒックスは、尊厳が未解決の紛争の根本原因の一つであること、そして尊厳の問題に取り組むことが、それぞれの立場に固執している当事者間に変化をもたらす実行可能な選択肢であることを何度も認識した。
この最初の発見がきっかけとなり、筆者らは2017年、ビジネスや仕事において尊厳はどのように表れるのか、そして、なぜ尊厳が職場の人間関係を再構築する解決策となるのかについて研究を開始した。また、組織における尊厳を測る基準も開発した。これは、上司やチームのメンバーが、互いを人間として認め合い、他者が誠実であることを前提とし、他者の尊厳を侵害した場合に謝罪し、互いの自主性や信念を尊重する度合いを人々に評価してもらうというものだ。
この基準を用いて、さまざまな業界や規模の組織に所属する、在職期間や役職の異なるプロフェッショナル600人からデータを収集した。その結果、マネジャーや上司が職場のプロフェッショナルの尊厳をどの程度尊重しているかは、従業員のモチベーションやエンゲージメント、仕事への満足度のレベルと、現在の組織に留まる意思と強く関連していることがわかった。