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多様性の捉え方を見直す
筆者はエンジニアと仕事をする中で、彼らがより高い信号対雑音比(S/N比)を追求するのを間近で見てきた。信号は、平たく言えば、求めているもの、雑音はそれ以外のすべてだ。信号はインプット、つまりやろうとしていること、伝えようとしていることであり、雑音は、望まない、意図しないアウトプットである。雑音の多い意見や言葉というのは、それが実際に何であるのか明確に理解されていない場合が多い。人々に届くまでに、元の信号が劣化してしまっている。たとえば、「AI」という言葉はいままさに雑音に満ちている。10人にその意味を尋ねれば、その人が置かれた状況や業界、政治的イデオロギーなどによって、10通りのまったく異なる答えが返ってくるだろう。
盛んに議論されている、職場における多様性の概念も、信号と雑音に例えると特にわかりやすい。
多様性という言葉は、言葉自体が幅広い意味を持つように、さまざまな感情を引き起こすようだ。それはつまり、多様性の空間にある信号は極めて微弱であり、雑音が多いということである。政治が二極化しているいま、状況はさらに悪くなっているようだ。筆者は講演やコンサルティングの際、よくリーダーたちにこう尋ねる。「あなたのチームにとってなぜ多様性が重要なのですか」。単純だが、賢明なリーダーたちの不意を突く質問だ。「えー」とか「あー」とかの後にさまざまな答えが返ってくるが、そのほとんどは雑音にまみれている。
多様性を醸成することがチームや企業にとって見返りの大きな投資であるとより明確に認識できる、説得力のある多様性の捉え方がある。
多様性に関する一般的な価値提案
まず、多様性の一般的な価値提案を3つ紹介し、その後、より生産的な代替案について論じたい。
1. 多様性は売上げ増加につながる
これは、多様性に関する最も一般的な価値提案の一つである。この主張の純粋な信号は、「多様性を推進している当社は、多様な顧客層に受け入れられ、顧客のニーズに合った製品や体験を生み出せる」というものである。
この信号は、多様性が利益を生む投資であることを強調する一方で、多様なチームメンバーを、売上げを伸ばすだけの存在に単純化してしまっている。たとえば、女性客の拡大を目指す消費財メーカーがチームに女性を採用すれば、その女性は同僚から「女性へ販売」するためだけの広告塔的な投資と見なされる可能性がある。この価値提案の雑音、つまり意図しない結果は、多様な新メンバーが自分は多様性という販売戦略のためだけに呼ばれたと思い、利用されている、あるいはメンバーとして完全に受け入れられていないと感じてしまうことである。