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ゲーム理論と
リアル・オプションを組み合わせた新ツール
アメリカの汎用化学品業界の年間売上高は、1995年から2001年にかけて200億ドルから120億ドルに縮小した。この間、業界各社の営業利益も年平均で26%ずつ減少した。これは、厳しい経済環境とドル高によるところが大きい。とはいえ、外的要因はこの業界にまつわる物語の一節にすぎない。
業界内の各社は、きわめてお粗末な意思決定を下していた。成長性でライバルの後塵を拝することを恐れて、経営者は余剰資金をひたすら生産能力の拡大に振り向けた。しかし、新しい生産能力が稼働したことで、価格と収益性を圧迫することになった。
このような話は、他の業界でもよく聞かれることである。それどころか、大規模投資を判断する際、あらゆる企業がこの化学品業界と同じジレンマに直面する。たとえば、ライバルの勢力拡大を未然に防ぐため、タイムリーな戦略的投資が欠かせない。その一方で、特に市場の不確実性が高い時期にはなおさらだが、高リスクのプロジェクトに過剰なキャッシュを傾けることを慎まなければならない。
このジレンマを解消するには、DCF(割引キャッシュフロー)法やリアル・オプションといった従来の価値評価(バリュエーション)手法では不十分である。どちらの手法も単独では、自社やライバルが追加投資する可能性、あるいは需要変動や価格変動の影響を正しく反映しない。
本稿では、これら2つの価値評価手法の短所を克服するものとして、エラスムス・スクール・オブ・エコノミックス教授のハン T. J. スミットと本稿執筆者の一人レノ・トゥリジオリスが開発したツールを紹介する。
この手法は「オプション・ゲーム」と呼ばれ、柔軟性とコミットメントの価値を定量化するために、需要変動や価格変動を考慮するリアル・オプションと、ライバルの行動を把握するゲーム理論を組み合わせたものである。この手法を用いれば、複数の投資戦略を合理的に選択できる。
自社の行動とライバル各社のそれが相互に影響し合う不安定な環境の下、数百万ドル規模の設備投資を伴う大金のかかった意思決定を下さなければならない企業にとって、オプション・ゲームはきわめて有益である。