なぜ判断ミスを犯してしまうのか

 意思決定は、私生活でも、また仕事のうえでも、中心的な役割を果たしている。我々は日々、何らかの意思決定を下している。そのなかには、たわいなく、個人的で、特に気に留めもしないものもあれば、人生や生活、生き方を左右する重要なものもある。

 その際、当然ながら、ミスを犯すこともある。悲しいかな、頭脳明晰で責任感の強い人が正しい動機としかるべき情報を持ちながらも、きわめて重要な意思決定において、救いようのないミスを犯してしまう。

 ダイムラー・クライスラー(現ダイムラー)の元CEO、ユルゲン・シュレンプもその一人である。彼は社内の反対を押し切ってクライスラーとの合併を進めた。その9年後の2007年、サーベラス・キャピタル・マネジメントにクライスラー株式のほとんどを売却しなければならなくなった(2009年、残りすべてもサーベラスに放出)。

 イギリスの大手ドラッグストア・チェーンのブーツを抱えるアライアンス・ブーツのCEO、スティーブ・ラッセルは、ライバルとの差別化と成長戦略の一環として、歯科などの医療サービスを提供する新店舗を展開した。

 ところが、ブーツ経営陣に医療サービスに必要なスキルがなく、またこの分野は大して儲からないことがわかった。結局、この戦略を推進したラッセルは責任を取って、早々とCEOを辞任するはめになった。

 国土安全保障省のHSOC(同省オペレーション・センター)のトップ、マシュー・ブロデリック准将は、ハリケーン・カトリーナでニューオリンズの堤防が決壊した場合、ジョージ・ブッシュ大統領(当時)やその他政府要人に警告するという重要な役割を担っていた。

 ところが、2005年8月29日の月曜日、堤防が決壊したという報告が多数上がっていたにもかかわらず、彼は「堤防は持ちこたえているらしい」と報告した後、さっさと家路についたのだった。